私とカートゥーンと鈴と。: アクメッド王子の大冒険 Der Prinzen Achmed

アクメッド王子の大冒険 Der Prinzen Achmed

アクメッド王子の大冒険
Die Abenteuer Des Prinzen Achmed
1926 (独) 70/100 世界最古の劇場用長編"影絵"アニメ
 以前、猫たちの聖夜で、ドイツのアニメ産業は余り発展していないと書いた。しかし、アニメーションの黎明期においてはドイツはフランスや英国に負けず劣らずの状態だったのだ。ドイツのアニメ産業が衰退した理由は、今現在でも謎に包まれている。
 今回は、そんなドイツの戦前のアニメ。


本編一部↓(本来は無声映画です)

あらすじ

  •  イスラムの都では、王様カリフの誕生祝の宴が行われていた。そこへ魔法使いがやってきて、空飛ぶ魔法の馬を披露する。王様はその馬が欲しくなるが、魔法使いは王女ディナルザデーを妻にめとることと引き換えにするという。
     兄のアクメッド王子は魔法使いの身の程知らずの非礼に怒るが、魔法使いによって馬に乗せられ天空の彼方に飛ばされてしまう。そこから、アクメッド王子の、世界を股にかけた大冒険が始まる! ワクワク島で美しい妖精パリバヌーと出会うが、彼女は中国の皇帝に囚われてしまう。
     一方、魔法使いはアラジンから魔法のランプを騙し取り、王子の妹ディナルザデー王女をさらっていた。王子は火の山の魔女の力を借り、アラジンとともに魔法使いに戦いを挑む。  (DVDの紹介文から引用) 
紹介&感想
 映像の原点としての高い価値は存在するものの、今の感覚で見ると少々キツい。

 ドイツ出身のロッテ・ライニガーとカメラマン、そして助手2人を連れて、3年かけて制作した本作。少数人数でコマ撮りをする苦労は計り知れない。しかも、そんな作業を、ユーリ・ノルシュテインフレデリック・バックより3,40年も前にやり遂げているのは、もはや脱帽だ。

 切り絵によって創造された66分の冒険活劇は、物語という点では中弛みするものの、芸術面では文句なし。時代を考えれば圧倒的だ。群衆を見せるシーンでも一対一の対話のシーンでも造形や衣装にキレがあるのが良い。タイトルロゴから背景の細かい部分、王様や召使、道化師、姫などの登場人物にまでアラベスク様式で統一されている。そのため、イスラムの雰囲気がしっかりと感じ取れる。また、ターバンや衣装の振動などの細かい部分の拘りも合って、キャラの存在感が半端ない。




 DVDでは白色以外の背景が影絵に使用されている。背景は染色済みで、よく見ると物体を示す黒い部分と空間を示す色以外に、もう一つ存在する。つまり、セルで言う所の3枚重ねのような状態となっているのだ。この背景色彩が、さらなる奥行きを生み出している。鈴を鳴らすシーン、アクメッドとパリバヌーの出会い、黄色い山岳地帯での王子と悪の絡み合い等、視覚的な効果で見るものを飽きさせない。

 内容に関しては一点。王子、ダメ男じゃん。内容がシンプルな分、余計に目立つ。悪役の魔女の方がキャラとして見栄えしてたのは、少し残念かな..(まあ、粗探しレベルの短所だけど)

 大袈裟な動きだけでドラマは理解十分にできるものの、過度な期待は禁物。絵画芸術を見る感覚でなければ、この作品はろくに観れないからだ。王子と姫のラブロマンスや変幻自在の魔術師等、映像の美しさに冒頭10分で感銘を受けることがないなら、視聴を控えたほうが良い。(大半の無声映画は音楽が追加されているので、修正版から見るのがいいかも)

余談
 現存する最古の作品は上記のものであるが、世界最古の劇場用長編アニメとされているのは、1917年公開の"El Apóstol"(使徒)というアルゼンチンのキリーノ・クリスティアーニ氏の作品一秒14フレームで70分のカットアウト(切り絵)方式で制作されたらしい。内容は、当時のアルゼンチン大統領【イポリト・イリゴージェン】による腐敗と混沌のブエノス・アイレスが、ユーピテル神の雷撃によって浄化されるという風刺アニメだったとか。
 ところが本作の公開後、監督の所属するスタジオが火災に見舞われ、唯一のフィルムは消失。(当時はコピーすらされていなかった) 結果的に、失われた映画となってしまった。
↓当時の資料写真。
 
歴史的価値の高い一本。
 

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