私とカートゥーンと鈴と。: チーズ・ホリデー A Grand Day Out

チーズ・ホリデー A Grand Day Out

ウォレスとグルミット チーズ・ホリデー
A Grand Day Out
1989 (英) 88/100 月はチーズでできている(格言)
 英国を代表するアニメスタジオが誕生したのは1972年。ピーター・ロード氏デイヴィッド・スプロクストン氏の2人で創設されたアードマン・アニメーションズは、黎明期の頃から老若男女問わず楽しめる作品を製作してきた。そんな中、1985年に彼等はアードマンスタジオに新たな風をもたらす人物に出会った。その方こそが、ニック・パークだったのだ。
 そんな彼が、学生時代に製作を始めた短編アニメ。

紹介
 発明家で初老、少しとぼけたのウォレスと、その飼主に下克上を目論むこともなく従順に、対等に従う犬・グルミットの名コンビが活躍する短編アニメ。日本ではとりわけ『ひつじのショーン』のスピンオフ元として有名なウォレスとグルミット(以下W&G)シリーズの第一作。大半の方はW&Gが制作スタジオの顔であると同時に、その会社の作風のように思われることが多いが少々異なる。

 製作元のアードマンスタジオは、ピーター・ロード氏デイヴィッド・スプロクストン氏によって創設された会社だ。万人受けする子供向けアニメ『モープ』や、口の動きをほぼ完璧に再現した巧みな技術、もといアードマンの十八番【リップ・シンク】を用いてアードマンは様々な映像を排出していた。その作品は、作家性の高いシュールな世界、毒々しくも華々しい英国ユーモア、そして一度ハマれば病みつきなる映像で大衆を魅了していた。そんな中で、W&Gは異端の存在だった。勿論上記に挙げた特徴は兼ね備えていたものの、それには他にない魅力があった。

 それは、年齢を問わない大衆性だ。

 アードマンの作品は基本的に予算や時間を膨大に必要とするクレイアニメであったため、TV番組がモープ以外になかった。モープにも大衆性はあったが、あくまでも教育番組感が強く奇抜さにかけていた。また、それ以外の短編は正直際物でカルト色が強かった。そんな中で、W&Gはそういったアードマンの作風を残したまま、高いエンタメ性を兼ね備えていたのだ。
学生時代

アードマン時代

 さて、一作目であるこのチーズ・ホリデーは学生時代とアードマン時代の2つを隔てており、随所にその特徴が現れている。
 学生時代の方は造形があまり固定化されることがなく、粘土アニメ特有の不気味さも相まって少々怖い。ウォレスがロケット用の木材をノコギリで切るシーンは、それが如実に表れている。また、グルミットも顔の上部が細く、下部が現在のデザインよりも膨らみ気味である。

 アードマン入社後の方は、デザインこそ異なるものの、キャラの顔や印象は変わることがなく安定しており、奥行きのある背景が多用されている。前半にあった窓を見上げるシーンとロケット発射前の夜空と比較すると、後半の方の労力が多大であることが伺える。
尚、ロケット発射後のシーンはロケット内部は学生、宇宙空間はアードマンとなっている。

あらすじ
 英国の西ワラビー通り42番地。そこに住むのは一頭の犬と発明家。彼等はありとあらゆる書籍に目を通し、終末の旅行の行き先を決め兼ねていた。そんな中、彼は気分転換にお茶の準備を始めた。そこで見た、空っぽの冷蔵庫を前にして思いついたのは、"月に行くこと"だった....

感想
 よくよく考えたら、"チーズを食べに月へ行く"時点で相当シュールな本作。チーズを食いに行くために前代未聞の旅行を立ててしまうのも凄まじいが、それをすぐ行動に移しているのもある意味おそろしい。

 シリーズ共通のことだが、このコンビの関係が素晴らしい。飼い主と犬の主従関係は成り立っているはずなのに、犬と人間でも対等な関係を築いていて、しかも違和感が湧かないのだ。グルミットは頭の良い犬ではあるが話せない。しかし、何度見てもウォレスとの間に会話があるように見えるから不思議だ。 因みに、製作途中ではグルミットにも声優を付ける予定があった。しかし、俳優の声の個性を反映させづらい体力的に限界があると判断され帳消しになったのだ。



 ロケットを時前で製造し、宇宙服を着用せずに大気圏外へ飛び、月表面で無重力になることない。状況のツッコミが追いつかないはずなのに、そのツッコミが出る前に映像に見惚れてしまうのだ。主要人物が月で浮かばないのに、ボールを蹴り上げたら空まで浮遊していくシーンは、思わず笑ってしまった。

 どこかの誰がか置いていった月の番人こと駐車料金徴収機との交流もまた面白い。一度も機能するところを見ていないのに、25¢を躊躇なく投入するウォレス。月をやたらむやみに荒らす無法者と勘違いするロボットの奮闘。ただの無機物なのに、感情豊かで微笑ましい。映像は、学生時代もアードマン時代も共通して素晴らしい。特に細部のこだわりが半端じゃない。映像に凝りすぎると大抵内容が疎かになりがちだが、本作にそんな心配は無用。

 なお、声優を担当したのは"視聴率100%男"こと萩本欽一氏。最近販売されているジブリレーベルの方は津川雅彦氏。視聴済みの方ならほぼ同意するだろうが、日本語版は欽ちゃんVerが至高。絶対に。勿論、津川雅彦氏の演技が下手だからじゃない。彼の声が、普通のおじいちゃん声に聴こえるのに対し、欽ちゃん特有の甲高い声が、ウォレスに英語版にはないはっちゃけた個性を与えているからだ。

 原語版ではピーター・サリスがウォレスを演じている。監督の求めるヨークシャー訛りの"英国"らしいおじさん声が充てられており、英国国民が寄り添いやすい人物像が出来上がっているのだ。

 本編も23分だから手軽に見れる。体感時間はもっと長いはず。老若男女にお勧めの一本
 

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