私とカートゥーンと鈴と。: パジャマを着た男の記憶 MEMORIES OF A MAN IN PAJAMA

パジャマを着た男の記憶 MEMORIES OF A MAN IN PAJAMA

パジャマを着た男の記憶 
Memories of a Man in Pajamas
2017 (西)80/100 

 東京アニメアワードフェスティバル2018。あくまでも、脳神経が身震いするような刺激的な作品を求めるがゆえに海外のアニメを視聴している私にとって、正直全然興味がなく蚊帳の外だった。しかし、ある作品が目に止まったのだ。そして、それが国際的評価を受けたアニメーション作家の赤裸々日記のようなものだという話を聞いて、居ても立ってもいられなくなった。
 今回は、そんな作品。

 スペイン内戦を描いた『灯台』や、ジブリ配給のお陰で手軽に見れる『しわ』などで高い評価を得ていたスペインのイラストレーター、パコ・ロカ。原作は、そんな彼が人気がない頃に舞い込んだ新聞連載の仕事ぶりを描いた漫画作品。

あらすじ
 フリーランスのイラストレーターであるパコ・ロカ。いつものようにいつもの親友と他愛もない無駄話をしていると、ある新聞社の社長に漫画の連載を持ちかけられる。彼はパコ自身の会話に独自の面白さに目をつけたのだ。その後連載を始めたパコ・ロカは、自身に起こる"残念な"日常を描いていくことで、徐々に人気を集めていくが....

パジャマ姿こそ至高。

 自身の姿を赤裸々に描いたアニメや漫画は国内外に数多くある。ハービー・ピーカーという冴えない男性を描いたロバート・クラムの『アメリカン・スプレンダー』や、2児の母として元気に切り盛りする姿を描いた『毎日かあさん』など。ただ、"漫画家としての話"を軸に丁寧に広げていく作品は中々ない。

 原作者曰く8割がノンフィクションの物語は非現実と現実の境目が曖昧だが、そのおかげでフィクションとノンフィクションの釣り合いがちょうどいい。日本でも"漫画家としての話"が軸になった漫画は存在するものの、大抵はその出来事の面白さを文字で説明することがほとんどである。特に文字の主張が強く、絵の影響力が薄れているものは最悪だ

例)『毎日かあさん』、『いい電子』

 本作のスペイン語は、必然的に音韻が多くなる言語のためか会話量が多い。しかし、アニメの動きだけで状況を察するシーンもしっかりと存在するため、それほど五月蝿く感じることはない。なお、"パジャマを着た男の記憶"と聞くと、体調が悪いかニートや引きこもりの話に聞こえるがそういう要素はない。

 本編は、冒頭で原作者自らが登場し自分のパジャマ姿を自虐することから始まる。序盤では、トントン拍子に景気づく彼の姿がユーモラスに描かれていく。自分のドジだけでネタ探しに苦労することなく単行本分のネタを創作できたのは、流石にフィクションでは....?

 自身のドジは単純な笑いどころではなく、意外な伏線も貼っていて作者のことを全く知らない方でも関係なく物語に惹き込まれていく。パコの漫画が車内を始め新聞の購読者の内で人気が上がる中、彼の漫画を掲載する新聞社の女性社員ヒルゲロが、彼に恋愛感情を持ち始める。初めはどんな出来事も漫画のネタにするパコに少々引き気味であったが、それに臆することもなく、二人は相思相愛のカップルとなる。この辺りの展開は個人的に衝撃的で、【パジャマ男だからコミュ障のインドア派なんだろうなー】という日本的オタクのイメージが一瞬で吹き飛んでいった。




 パコの友人の一人が恋愛問題を抱えるなか、遂にパジャマ男初の単行本が完成する。そんな中、順調に漫画を描き続けていた彼にも遂にスランプが訪れる。恋愛関係が順調になったことで残念な自分の姿を見せなくなり、独身時代の想像力がカノジョに阻害される機会が増えたことで、スランプに陥ってしまったのだ。その後、彼のアイデア探しの手伝いにと彼女の旧友を誘った飲み会で、彼の日々の不満が公の席で爆発してしまう。彼女との関係に亀裂が生じていく中、締め切りに追われ、作品の質も低下し打ち切りのピンチが訪れて...

 "ネタ切れに悩む"というありきたりな事件でも、ここまで広く、濃く膨らまさせるのが凄い。それでいて、ギャグの勢いも衰えることがないのも良い。主人公が絶望の淵にいるときでも、コメディの範疇の中に収まっている。奇抜な設定で無理に推し進めることもなく、作者の想像力と体験を、あたかも全て後日談のように構成している部分は秀逸。また、作者本人が物語の案内人として登場するところからは、作品に対する絶対的自信が表れている。

 海外のアニメ映画でありがちなレーティングに配慮した描写が無いのも良い。本作には、性行為のシーンや下ネタなどの要素があるものの、あくまでも物語に馴染んでいて自然だ。

 創作物を扱う全ての人間が一度は遭遇する状況。クリエイターでもそうでない方も、気軽に楽しめる娯楽作品。一般劇場での公開なんて高望みはしないから、せめて日本語字幕版をオンライン配信して欲しい。後、原作の邦訳本も。

制作スタジオのホームページ http://dreamteamconcept.com/portfolio/memoirs-man-pajamas/

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