私とカートゥーンと鈴と。: 生涯をかけた自信作のはずが...『アラビアン・ナイト』 The Arabian Knight

生涯をかけた自信作のはずが...『アラビアン・ナイト』 The Arabian Knight

アラビアン・ナイト The Arabian Knight
1995 (米) 50/100

※リチャード・ウィリアムズ監督の"The Thief and The Cobbler"でなく、あくまでも同監督の再編集版、もとい一般発売されたミラマックス配給の『アラビアン・ナイト』のみ特集。
※本来はイギリス製作。本作の場合はミラマックス配給の為アメリカと表記

監督・企画・脚本 リチャード・ウィリアムズ
企画 イモジェン・サットン
脚本 マーガレット・フレンチ
主演 ヴィンセント・プライス
ナレーション フィリックス・アイルマー(原版)、スティーヴ・ライブリー (アリードフィルムメーカーズ版)、マシュー・ブロデリック (ミラマックス版:本稿で記述)
音楽 (原版)デビット・バーマン、ピーター・シェイド、デビッド・カレン
(ミラマックス版) ロバート・フォルク
撮影 ジョン・レザーバロー
編集 ピーターボンド
制作会社 リチャード・ウィリアムズ・アニメーション・プロダクション
アリードフィルムメーカーズ版
配給 ワーナー・ブラザーズ・ピクチャーズ(当初の予定)、ミラマックス・フィルムズ
上映時間 93分(原版)、82分(アリードフィルムメーカーズ)、74分(ミラマックス版)

あらすじ

  •  のんべんだらりと暮らす靴職人のタック。ところが盗賊と一悶着したことで、商売道具の釘がジグザグに刺さり、彼の怒りを買ってしまう。幸いにも、偶然見合わせた王女に気に入られ、事なきを得た。それを期に仲睦まじくなる王女とタックを他所に、ジグザグはある恐ろしい計画を遂行していた...
予告編


 28年もの歳月は、商業用としても、独立系としても、製作時間として割くには余りにも長い。『クリスマス・キャロル』『アンとアンディーの大冒険』でその驚異的な才能を発揮し、映画会社の垣根を超えたアニメスターが共演した映画『ロジャー・ラビット』でその才能を十分に活性化されたアニメーター、リチャード・ウィリアムズ。そんな彼が生涯をかけて完成させようと努力した作品の"ツギハギ"が、この『アラビアン・ナイト』である。

 彼の動きのメカニズムはまさに驚異的。絵画における空間技法を熟知した構成や演出を得意としており、ディズニー出身のアニメーターですら到底不可能とされる作画を平然とやってのける。例えば『アンとアンディーの大冒険』では階段の手すりで人形たちが滑り落ちていく場面がある。そこでは、登場人物が体験する驚天動地の大冒険を三人称視点で撮影しているのだ。一枚一枚背景画を新規に描き起こすだけでなく、画面から飛び出すような立体感を常時演出しているのは、も う 凄 い 。

 なおディズニー・スタジオでは、こういったカメラワークを人間の理解で解決するのでなく、技術的革新を以て再現していた。1990年公開の『ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!では立体空間をコンピューターで構築し、その背景に上書きする形でキャラクターを追加することで立体感のある映像を生み出した。

 そんなリチャード・ウィリアムズは、この映画でアニメーションを動きのみで喜怒哀楽や起承転結を伝えようと努力したのだ。ところが長い製作期間で、度重なる製作中断や、転々とする配給会社、販売側の無慈悲な要求を受けることとなり、彼の理想とは程遠い状態で公の場で公開されることとなった。



 欧米欧州のアニメーションの制作では、基本的に作画によりも優先的に俳優の声を録音する。そのため、公開時期には既に他界した俳優もいた。ヴィンセント・プライスはそのうちの一人である。1950年代にホラー映画に多数出演し、ホラー映画を代表する名優として多くの観客を魅了した。ディズニー出身の映画監督ティム・バートンに至っては、彼を狂信的に愛する少年を描いた『ヴィンセント』を製作するほど彼に惚れ込んでいた。本作で彼が担当した悪役のジグザグは監督が当初から採用する予定であったため、他のキャラクターとは比較的に好意的に扱えるのが素晴らしい。

 主人公の職人のタックは元々声優が割り当てられていなかった。しかしミラマックスが配給を担当した際、一般的な劇場用アニメと同様に大量の台詞を追加収録した。その結果、タックの声にマシュー・ブロデリックが配役されることとなった。

 実写・アニメーション映画での彼の活躍は玉石混交の状態。「やっぱりマグロ食ってるようなのはダメだな。」という罵倒で注目を集めたハリウッド版『GODZILLA』のミミズ博士や、ディズニー配給の『ガジェット警部』の実写版こと『GO!GO!ガジェット』といった黒歴史のような映画に出演した一方で、『ライオンキング』の青年期のシンバや『ホームアローン』の脚本家を採用した名作『フェリスはある朝突然に』に主役として出演している。

 本作の場合、彼の声色に嫌気が差す仕様となっている。ただし、彼の演技力でなく配給側が要求した退屈さを紛らわす"会話"にその原因があるので彼に責任はない。実際、彼の声は可もなく不可もなしといった印象だ。解説役を担当されたのは気の毒だが、幼稚園児や小学生の退屈しのぎにはもってこい"だった"のだろう。 その他、ジェニファー・ピールス、ジョナサン・ウィンターズ、スティーヴ・ライリー、トニ・コレット等の名優が声を充てているが、いずれも芝居のヘタウマに関係なく映画には目障りに映る。

 物語自体は特別複雑な事情や予想外の展開はなく、差し障りのないお伽噺の一つとして鑑賞できる。映像こそ迫力満点かつ創意工夫に満ち溢れているものの、筋書き自体は想像の範疇に留まるだろう。原作は『千夜一夜物語』の『靴直しのマアルフとその女房ファティマー(第989夜‐第1001)夜』。なお、1992年公開のディズニー映画『アラジン』は中東地域を舞台だが千夜一夜物語とは"全く"関係ない。(1) その原作とされる『アラジンと魔法のランプ』は中東発祥の寓話でなく、西洋文化の中で発展し定着したとされている。『ライオンキング』と同様に他文化を上辺だけ模倣するのはディズニーの悪い癖であるが、それと同時にリチャード・ウィリアムズが本作に掛けた本気度が伺える。

①泥棒と靴職人の追いかけっこの場面
②魔法使いジグザグ
本作は非常に興味深いが、残念ながら"面白い"には到達しない内容となってしまっている。①、②、③のGif画像のように本作では全編このような具合でキャラクターが動く。人間の表情や動きを鋭い洞察力で観察して描いており、頻繁に物事を音声抜きで表現しようとした形跡が見られる。ミラマックス公開版ではその苦労や拘りを踏みにじるように編集した為、俳優の演技も糞もないのだ。

 特に③ではキャラクターの設定と無口な性格を見事に溶け込ませても、マシュー・ブロデリックの声が只々鬱陶しい。口を開く動作がないこともあり、彼の解説役を担当したとしか感じられないのも痛い。また、ジグザグ以外の会話には時事ネタが頻繁に引用されたこともあり、映像の興奮と退屈な会話で本作の魅力が相殺されたような印象を受ける。
③靴職人タックの感情表現

 本作の泥棒の活躍も本来ならばスランプスティック的展開に笑い転げるのが理想形なのだろう。しかし、間髪入れずに登場人物の心境を赤裸々に語るのでウンザリする。『アラジン』(1992)に登場するアドリブ全開のロビン・ウィリアムズの演技の二番煎じとしても微妙で、もうどうしようもない。『アイス・エイジ』に登場するリスのスクラットが口煩く喋りだすようなノリは勘弁してほしい。この点に関しては日本語吹き替え版でも同じだ。(青野武さんや斎藤志郎さんの吹替はドラマCDの感覚で聞くならありかも。)

 本作の大本の"the Thief and the Cobbler"自体は映像研究にも一般的な娯楽大作としても中々のものだが、これに関しては海外へと輸出された80年代のAnimeを彷彿とさせる改悪の影響で酷い映画へと変貌してしまっている。映像面に偏りがちなのはリチャード・ウィリアムズ作品では日常茶飯事ではあるものの、これほどの超大作がこんな無様な待遇を受けたのは悲劇としか言いようがない。

 幸いにも"Recobbed Edition"とインターネットで検索すれば、完成形に近い姿を全編無料で鑑賞可能だ。また、本作にまつわるドキュメンタリー『パーシスタンス・オブ・ヴィジョン リチャード・ウィリアムスと幻の長編 "Persistence of Vision"』もオンラインで有料配信されている。こちらは情報量が非常に多く、Recobbed Editionでも拝見できない貴重な映像が堪能できる。英語力に自信がなくとも、経済的余裕があり、アニメーションに興味のある方なら、一度鑑賞するのも悪くないはずだ。

  

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