私とカートゥーンと鈴と。: しわ Arrugas

しわ Arrugas

しわ Arrugas
2011 (西) 85/100

監督:イグナシオ・フェレーラス
プロデューサー:マヌエル・クリストバル
脚本:アンヘル・デ・ラ・クルス/イグナシオ・フェレーラス/パコ・ロカ/ロザンナ・チェッキーニ
原作:パコ・ロカ 『 Arrugas 』(仏Delcourt社刊)
音楽:ナニ・ガルシア Nani Garcia


予告編


 別の作品でも冒頭で語られていた老人が登場する作品。それがこの『しわ』。本作は、日本での配給事情を考えれば普通にスルーされそうな映画だった。しかし、本作の監督がジブリの重鎮こと高畑勲氏にどうしても観てほしかったらしく、その流れに乗った結果日本での上映とビデオ販売が実現している。

 この映画のテーマは大半の先進国が属する高齢化社会特有の問題、"認知症"である。そんな問題をどう対処しきり抜けていく姿を描いている。

あらすじ
 長年に渡って銀行に務めていたエミリオに認知症の症状が出始めていた。家族から自分の異常に気付かされた彼は、抵抗することもなく養護老人ホームに預けられる。そこで出会ったのは、痴呆の酷い老人から頻繁に金を霞みとる同室のミゲル。食事のテーブルに並ぶ使い捨て容器の食品を集めて、面会に来る孫を喜ばせようとするアントニー。既に重度のアルツハイマーの・夫モデストを懸命に介護する健常者の妻・ドローレスだった。

 老人の数だけ個々の思い出が存在する。そして、日常生活もままならない老人は2階に移送されることをエミリオは理解していった。

 そんな中、エミリオはモデストの服用する錠剤の種類がほぼ一致することに気づく。そして、自信もアルツハイマーであると確信する。その事実を知ったミゲルは、彼のために"あること"をするのだが.......


 本作の製作に辺り、実際の老人ホームに訪問しリサーチを重ねたらしく、高齢者のいる空間にありがちな締め付けられるような閉塞感が強く伝わってくる。展開を聞く限りでは、あまりの救いの無さに退屈し目を瞑りたくなるかもしれないが、そんなことはない。

 認知症をアニメで再現されているのが素晴らしい。本作では、記憶や感覚にブレが出た経験者から情報を得ることも出来ない"擬似的"な動作や言動を体験し、共感できるのだ。特に、親戚や同居人で高齢者の方がいれば、思い出したくもない"あるある"が詰まっており興味深い。また、老人たちも、若者と老人の二極化という構図にはならず、一人一人の立ち位置がしっかりと区別されている。劇中の舞台は老人ホームから移ることは殆どない。しかし、老人達の回想シーンでは、舞台が突然急行列車やイタリアの街に移り変わる。そこで、彼らの人生の絶頂期や転機が垣間見れる。特に、モデストとドローレスの出会いを描いた子供時代の回想は感動モノ。




 エミリオの息子と姪の描写も印象的だった。エミリオを預けた後、彼らは旅行に出かけ、住み慣れた家を売却していくのだ。そのシーンでは、ー度家庭での居場所を失えば、帰る場所は最早存在しないのはどこの国でも一緒なのだと教えてくれるのだ。主人公のエミリオが食器の種類を間違えているシーンや、盗まれたと思っていた彼の財布や腕時計が盗難防止用に隠されていたことに気づくシーンは、衝撃的だ。いくら周りに気を配り目を光らせていても、その時の記憶に残すことはないのだから。


 一つ気になったのは、ミゲルの存在。小悪党かと思えば、実は意外と思いやりのあるいい奴なのだが、何故彼は老人ホームに入所したのだろう。老衰や痴呆といった"恍惚"老人特有の症状は特になく、結婚せずに老後を迎えた独身で預けることを依頼する知人も見当たらなかった。老後を楽に暮らすためとは思えないし、第一彼自身も介護施設を監獄呼ばわりしていたから尚謎だ....

 鬱の気がない、そして老後に興味のある大人にはお勧めの作品。

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