私とカートゥーンと鈴と。: 生きのびるために The Breadwinner

生きのびるために The Breadwinner

生きのびるために The Breadwinner
2017 (愛蘭) (PG) 60/100

 "常識"というものは、最近変わりつつあると思う。ネット社会によって今迄は知る由もなかった地域の情報も、マウスの操作で容易く手に入るようになった。 そうして、様々な地域の情報を紐解いていくと、たまに理解出来ない常識に常に付きまとわれることがある。

 今回は、そんな影響をモロに受けたアカデミー賞ノミネート作品。

 原題の"Breadwinner"とは稼ぎ頭のこと。

あらすじ
 主人公はまだタリバンが支配するアフガニスタンで暮らす少女パヴァーナ。ある時、彼女の父ヌラーラが無実の罪で逮捕される。

 女性は男性と共に出歩くことが義務付けられたタリバン支配の町で、母親ファテマと彼女の妹ソラヤを飢えから救うために長い髪を切り、少年の服装をしてパヴァーナは友人シャウジアと共に働き始める。

 そこでパヴァーナは今までに見たこともない新しい世界、それと隣どおしの危険な世界に遭遇する。ついには、父親の行方を探し、離ればなれになった家族を再び一つにしようとする。

予告編


 アニメを題材に社会問題を取り上げるものは、現在では世界中に存在する。ブラジルの『父を探して』、アルゼンチンの『火星人メルカーノ』、イスラエルの『戦
場にワルツを』、イラク出身の女性が主人公の『ペルセポリス』と様々だ。

 本作では、"イスラム教の教え"により不当な扱いを受ける女性たちの現状が映し出されている。顔も表に出せない、主張する権利もない、そして生きる資格さえままならない。これが地球上で起きることとは思えない。 ”野蛮“という言葉がお似合いの男性達が全てを仕切る、タリバン政権の支配下。。国際化の時代と謳われる現代の日本人の感覚からしたら狂気の沙汰とも受け取れる。中東情勢をある程度齧った方でなければ、そんな世界がごく普通に存在することに衝撃を受けるはずだ。
 
 そんな世界でも、直向きに生きる11歳の少女パヴァーナを描いた本作。

 原作は、現地の難民キャンプから聞いた実体験を元に膨らませた同名小説。製作は『ブレンダンとケルズの秘密』や『ソングオブザシー』を手がけたのカートゥーンサルーン。ケルト神話を題材にした前2作とは全く異なる、ノンフィクション寄りのもの。気持ちの安らぐ場面はごく僅か。


 今まで通りの日本人ウケも悪くないキャラクターデザインと、奥行きを与え辛い平滑な造形は本作にも健在。実写映像を用いれば砂塵に塗れたような陰惨な雰囲気によって見苦しくなるのは間違いない。アニメーションによって物事を反映させつつ、窒息するほどの重圧感を無くし、より心に刻み込む作品にはなり得ている。また、主人公が逆境に立ち向かう葛藤を抽象的な映像で民謡になぞらえたいるのも素晴らしい。



 冒頭の折り紙風のアニメーションや、彼女が見立てた神獣と少女の葛藤シーンは民謡を得意とするカートゥーンサルーン作品ではよく見られた幻想的なものとなっている。


 しかし、その映像が本編で唯一の息抜き..もとい現実逃避となっているのは残念。

 社会問題を提起することがアニメーションの一手段だとしても、あからさまに・大胆に・ありのままにさらけ出すことにはどうも納得がいかない。登場人物の細かい仕草でより印象的に映している『火垂るの墓』や、エンタメ要素を交えつつ女性🧕の不平等を訴えた『ペルセポリス』や、本筋でないところで社会問題を揶揄した作品であればやるに越したことはない。しかし、本作の場合映像が本筋に切り替わる際に記録映画に戻るような感覚が起き、その度に落胆するのだ。



 勿論、お互いの夢を語りあうパヴァーナとショーツィアの固い友情、海で会おうと約束する場面や、ラザクも懸命にヌルーラを護ろうとする場面では人間ドラマが展開している。それでも、“悲惨すぎる現実”がわずかにある”幻想“(ファンタジー)を掻き消しているのだ。仮定されたものならいくら強烈でも構わないが、本作は余りにも現実的過ぎて胸に悪い。説得力のある話だけになお辛い。別にお花畑の脳内で完結する映画にしろだとか、喜劇以外は認めないと言いたいわけではない。脚本と映像による相乗効果が欲しいのだ。

 中東情勢に虐げられる女性たちの悲痛な叫びを見せた本作。 膨大な受賞歴が証明するように、本作は素晴らしい作品であることには間違いない。しかし、本作は単純に嗜好が合わなかった。

 ところで、海外のアニメーション作品は米国の映画会社が大半を占める日本では、案の定劇場未公開となった。国内での劇場公開を望む声もあったが、正直言ってオンライン配信の方が正解であると思う。 娯楽性よりも教訓や講義を聞くような内容で、中々宣伝し辛い。また、大画面であれば見栄えする場面が数カ所点在するものの、配信によって容易に大衆に鑑賞する機会を与えられるメリットには到底勝らない。そして、本作は大人数で一体感を共有したところで、魅力が増す映画では”断じて“ない。

 それでも、ネットフリックスに加入中の方には、一度は鑑賞することを勧めたい。

 

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