私とカートゥーンと鈴と。: アーリーマン ダグと仲間のキックオフ! Early man

アーリーマン ダグと仲間のキックオフ! Early man

アーリーマン ダグと仲間のキックオフ!
Early man
2018 (英) 70/100
 原始人というと大抵、ボサボサの髪に筋肉隆々の身体、混紡を携えて行動する野蛮な姿を連想する。しかしながら、本作の"原始人"はその見た目も行動も予想外だった。

 今回はそんな作品。

予告篇


あらすじ
 マンモスの生きる太古の昔。清純な青年・ダグは相棒のブタ・ホグノブ、群れで暮らす仲間とともに緑溢れる小さな谷間で生活していた。ところが、青銅を用いるブロンズシティの暴君・ヌース卿の侵攻によって、彼らは故郷を追われてしまう。落胆する仲間たちを他所にタグはブロンズシティへと行き、ヌース卿に自分の故郷を賭けたサッカー対決を申し込む。果たして、ダグと仲間たちは勝利を勝ち取り、故郷へと帰れるのか...
英国や米国での公開はワールドカップに期待寄せ合う3月上旬。日本での公開はベルギー敗退に意気消沈した直後の7月6日。日本国内だと、熱狂的なサッカー好きには嫌なものを思い出させるだろうが、クレイアニメ好き、親子連れ、そして英国文化好きなら本作を観ない手はない。

 製作を手掛けたのは、英国の片田舎・ブリストルにスタジオを構えるアードマン・アニメーションズ。『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』などの傑作を輩出し、ここ20年ではアカデミーの常連となるほどの実績を持つ。最近では、手描きから3DCG、コマ撮りまで幅広く扱っているものの、彼らの本業はクレイ"粘土"アニメだ。クレイアニメが他の表現技法と大きく異なるのは、映像の中の物体に直接触れて形を変形させること。CGならマウス、手描きならペン、人形劇なら操り糸、人形のコマ撮りなら身体のパーツを動かすのだが、クレイは形を保つことが最も辛い。しかも、クレイアニメで用いる素材は熱に弱く、うかうかしてると溶けてしまう。しかも、1日に撮れる時間はたったの6秒しかないのだから、その苦労は途轍もないのだろう。


 クレイアニメに限らず、アニメーションの表現に注力した作品では、こんなことを心配する方もいるだろう。「映像が全てではない。」「話が駄目なら意味はない。」といった具合に。

 心配ご無用。本作は内容も良好だ。

 多種多様な風刺や皮肉を大量に盛り込んだ『マウスタウン』や、長編に幅を広げたことでリズミカルな展開と不意打ちをつくギャグを失った『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ』とは違い、『アーリーマン』はかなりシンプル。それでも、内容に飽きることはなく、本筋から寄り道するときはしっかりと伏線や笑いどころを残しているので安心。




 本編で散弾銃の如く繰り出される小ネタはざっと3種類。サッカーあるあるとイギリス人いじり、そして原始人ネタ。審判の妨害や"お気持ち"を払わせるといった描写など大人がクスッと笑う"ブラック"ジョークもあるにはあるが、子供が見ても悪影響を与えない程度の些細な要素となっている。というか理解できないはずだ。暴力行為や絵で見せるものにも、徹底的に配慮されているのは流石はアードマン。 特に、女性軽視や競技運営への批判などはしっかり是正すべきだという明確な教訓が盛り込まれており、説教臭さもないごく自然な描写なのは素晴らしい。

 ただ、少し気になったのは、青銅器文明の人間と石器時代の人間の対立というメインテーマ。ヌース卿側はサッカーを崇拝する立場ではあるが、英国にとってのサッカーは労働者階級の楽しみだ。原始人側がヌース卿に対抗する構図はいわば労働者と貴族。"別時代"の人間の勝負とはいえ、双方に自身が進歩した人間・遅れた人間だという認識がある以上、このネタはかなり踏み込んでいるといえる。

 また、相変わらずニック・パーク風のデザインが相変わらず可愛い。原始人側は皆ボサボサヘアだけど、表情は少し惚けていて、愛嬌があって。ヌース卿も悪党ながらも少し馬鹿っぽくて、おっちょこちょいで。『ウォレスとグルミット』でギョロ目が気味悪いと言っていた人も、彼らなら大丈夫。髪や毛皮を着飾った姿なら気にならなくなるしね。特にウサギのデザインは秀逸。『野菜畑で~』の微妙に変更されており、ワンパクないたずらっ子のような印象がある。

『野菜畑~』でのうさぎ(ウォレス)
②『アーリーマン』でのうさぎ ③『野菜畑~』でのうさぎ(通常体)
 ②

 スポーツ映画というと練習や試合で尺稼ぎすることが多いが、本作はそういった中弛みはほぼない。原始人なりのユーモア溢れる練習風景は、ゴツゴツした岩肌の中でもカラフルで奇抜。試合風景でも、クレイアニメだと忘れてしまうほど大迫力のある映像で目が離せない。現実離れしたプレイの連続だが、人間離れした漫画的な動きがないのが素晴らしい。 炎をちらつかせるサッカーボールやキャプテン翼のような人外的な足技は、漫画で読むにはいいが、アニメでやると拍子抜けする。ましてや、懸命に動かしたコマ撮りの努力を無駄にするような演出はもってのほかだ。

 なお、映画専門のサイトでは原語版の俳優の豪華さを宣伝が目立つものの、字幕版は全国で8館しか公開されないので都市部に在住でない方は、諦めて吹替版を楽しみましょう。

 

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