私とカートゥーンと鈴と。: 『ビルビー』と"Larrikins"について

『ビルビー』と"Larrikins"について

『ビルビー』と"Larrikins"について

 ドリームワークス・アニメーション(以下DWA)5年ぶりの日本上陸となった記念すべき作品、ボスベイビードリワ作品は基本的に日本ウケが悪いと言われてきたが、蓋を開けてみれば34億円(1)というDWA史上最大のヒットを記録して幕を閉じたのだった。本作は宣伝も映画そのものも過去作と比較しても非常に豪華で、5年ぶりの日本上陸を前に素晴らしいおまけを用意してくれたのだ。

 それが、このビルビー"Bilby"という短編である。


 DWAは劇場用に短編を製作する機会は少なく、鑑賞できる機会は更に少ない。加えて日本では、その数少ない機会さえも奪うことが常だった。つまり、日本での同時上映は過去に一度もなかった。例えば、欧米欧州圏内の映画館での『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』にはマダガスカルの短編『ペンギン大作戦』が同時上映されていた。

 なお本作はDWAのCG部門の大本PDI(パシフィック・データ・イメージ)で製作しており、映像も内容も劇場アニメと遜色ない出来だ。ところが、これ以降の短編はその子会社のドリームワークス・アニメーション・テレビジョン(以下DAT)に委託することが徐々に増えていった。

 その後、質より量で攻めた映画製作(※)ネット上の人気コンテンツの買収が仇となり、2014年頃には倒産危機に陥ってしまう。この辺りになると、DWAとしての短編は皆無となった。

※ DWAの劇場未公開作品(Fox配給時代)は評判も興行成績もシュレックの頃と比較すると、あまりいいとは言えなかった。




 現在はそんな危機的状況からは抜け出せているものの、決して安泰というわけではない。DWAは数年前までは独立系企業として営業していたため、ピクサーイルミネーション、ブルースカイ等のアニメスタジオとは異なり、親会社から保護されることはなく、余裕のある状況の方が少なかった。現在はユニバーサル映画を所有するコムキャストに買収され、上記のスタジオと同様の余裕を得えている。(ピクサーも2006年までは一応独立系でした)

 近年の状況から考察すれば、まず短編を制作する経済的余裕は無きに等しい。『ビルビー』の短編映画とは思えない圧巻のクォリティを目の当たりにすれば尚更。では、なぜ製作されたのか?

 それは製作を諦めるには、既に作品に対する情熱が強くなっていたからだと思われる。


Larrikins(ラリキンズ)

監督:クリス・ミラーとティム・ミンチン
出演:マーゴット・ロビー
ローズ・バーン
ナオミ・ワッツ
ヒュー・ジャックマン
ベン・メンデルスゾーン



 『くもりときどきミートボール』『21ジャンプストリート』、『レゴムービー』で観客や映画業界に衝撃を与えた2人の内の一人クリス・ミラー監督や、XMEN映画で最高のはまり役のウルヴァリンを手にしたヒュー・ジャックマンなどの豪華制作陣。加えて、版権モノでも続編でもない完全新規作。

 アニメ映画の中で俳優の個性を最大限に引き出すことに注力するドリームワークスにとって、これ以上にない独創的な設定と個性豊かな俳優の演技はアーティストたちに良い刺激を与えたに違いない。 数々の企画が表れては立ち消えていたDWAの中でも、本作は比較的長く製作が継続されていた。紹介ページのあらすじや制作陣のTwitterのインタビュー記事でも、オーストラリア英語を徹底的に引用していた。それらのことからも、"Larrikins"に対する情熱は相当なものだったことが解る。

 物語の舞台はオーストラリア。家族と共に平穏に暮らしていたビルビーは両親と離れ離れになり、岩砂漠広がる大地の中で独りぼっちで冒険していくというもの。原題のLarrikinsとは、オーストラリア英語で不良少年や滑稽な変わり者をいう。コンセプトアートから考察すると、上記の画像の鳥を指すものだと思われる。


 製作開始から5年以上の歳月が経過し、親会社のコムキャストの制作中止が下された時、他の劇場未公開作品の如く形を持たぬまま闇に葬られるはずだった。しかし、制作側は諦めずに、何とかして形に残そうと躍起なった。その結果"Bilby"が誕生したわけだ。
 
 Bilbyのあらすじ
 砂漠で食糧確保に勤しむたびに危険動物に襲われる一匹のビルビー。なんとか逃げ切った先で、一羽の小鳥と出会う。小鳥が自分の後をついてきているのを知りながらも、自分の身を守るのに精いっぱいなビルビーは、その場を立ち去ろうとするが、危険動物が小鳥に近づいているのを見つけて……。
 小鳥を必死に守るビルビーの孤軍奮闘ぶりはお茶目で心温まるものであった。俳優の声を持ち味とする従来のDWA作品とは異なり、登場人物が人語を介することなかったため、完全に音楽と映像で魅せる作品であった。これが長編作品であったら、さぞ独創性に満ちた素晴らしい映画になったに違いない。つくづく惜しい。

 本作のスタッフロールでも制作陣に対するLarrkinsbilbyへの感謝のメッセージがあり、やはり彼らにとって思い入れ深い作品なのだといえる。

 余談

 日本で同時上映された『ビルビー』は、日本版『ボスベイビー』のDVD/Blurayに収録されないどころか、ネットの海をかき回しても本編映像は一秒も発見できない。製作国のアメリカの観客さえ観られず、映画祭等でのイベント上映も日本公開よりも後だったのだ。つまり、ビルビーはDWAが当時可能だった日本への最大級のおもてなしだったのだ。ドリームワークス側からか配給担当の東宝東和さんから話を持ちかけたか不明だが、この短編を上映したことに感謝したい。

(1) box office mojo調べ
 作品発表に関する記事
 本作の製作中止の記事
 本作のコンセプトアート

  

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