私とカートゥーンと鈴と。: イカボードとトード氏 The Adventures of Ichabod and Mr.Toad

イカボードとトード氏 The Adventures of Ichabod and Mr.Toad

イカボードとトード氏
The Adventures of Ichabod and Mr.Toad
1949 (米)  80/100 

監督 ベン・シャープスティーン
製作 ウォルト・ディズニー、ロイ・O・ディズニー
音楽 オリバー・ウォレス
撮影 ボブ・ブロートン
編集 ジョン・O・ヤング
原作 『たのしい川べ』"The Wind in the Willows"トード氏パート】、『スリーピー・ホロウ』"The Legend of Sleepy Hollow"【イカボード先生のこわい森の夜パート】

 "過酷"という言葉ですら生易しい悲惨な労働環境に不満を訴えるアニメーターたちのストライキや、第二次大戦による海外市場の大打撃、『白雪姫』以外の長編の興行的失敗など、様々な問題に直面していたディズニー・スタジオ。そんな1942年から1949年の時期に公開していたのが、複数の短編を結合させたオムニバス映画である。

 1949年に公開された本作は、元々トード氏の単独作品として公開する予定であったが、長編としては上映時間が不足していたため、急遽イカボードの方も追加された。日本国内では、イカボードパートだけならVHS【ディズニーの怖い話】や、DVD【ミッキーの王子と少年】で視聴可能。トード氏の一部は、ディズニーの劇中歌を収録したシンガアロングソング用に吹き替えた映像があるものの、作品としては不完全な状態である。ディズニーチャンネルの開局間もない頃に数回再放送されたのみで、媒体販売は一切ない。(パクリックドメインのDVDすらない)    

⬇国内で販売された唯一の場面(トード氏)


 旧吹替や現行版を含めても、本作の吹替え版完全な状態では視聴困難な作品となっている。

トード編

  •  冒険好きで常に刺激を求める大富豪のトード氏は、大親友の馬に乗って大暴れする毎日を暮らしていた。その状況に頭を悩ませる会計係のアナグマと、知り合いのモグラとネズミは彼を止めにかかるが全く聞く耳を貸さないのだった。ある時、馬よりも刺激的な自動車に興味を惹かれ、車を購入するが....

イカボード編

  •  田舎町スリーピー・ホロウに一風変わった教師が赴任してきた。その名もイカボード・クレーン。イカボード先生は持ち前の器量と人の良さで町の人々と打ち解けていく。ある日、イカボード先生は町一番の村長の娘・カトリーナに一目惚れ。しかし、町の人気者ブロムも娘を我が物にするためブロムはハロウィンの夜にちょっとした余興を行うが....
予告編

 まず、トード氏の紹介から。 


  "Merrily road"と名が付いた陽気な歌と共にさっそうと登場するのは、主役で大富豪のトードと相棒の馬。彼は落ち着きがなく、暴走気味で、常にスピードに飢えている。ある時、馬よりも速い自動車に一目惚れをする。自動車を手に入れたはいいが、盗品を購入したことで、窃盗容疑の濡れ衣を着せられてしまう。裁判で有罪判決を食らうも、クリスマスに脱獄し、無実の罪を晴らす。トード氏はその騒動によって落ち着いて生きるのかと思いきや、もう興味は飛行機へ移って終わる。


 これらの出来事がテンポよく、スピーディーに展開されており、トード氏の王道的なカートゥーン的な性格も相まって終始飽きない。原作でも暴走気味で少々下衆いカエル君の勇姿はアニメでも顕在。(なお、原作では冤罪でなく本当に盗んでいる。しかも、暴走して交通事故まで起こしている。トード氏が過激なことに変わりはないが、これでも修正が加えられているのだ。)






 トード氏の横暴に頭を悩ますアナグマの会計士や、彼に忠告を促すモグラとリス、そして、トード氏の財産を横取りしようと目論むイタチの強盗団とそのボスなど、個性豊かなキャラクターの存在もあって、波乱万丈の展開が繰り広げられる。

 動物たちが肉食・草食の壁を越えて生活する様子は、"アニメ"であれば普遍的なものだ。しかし、本作の世界観は少々奇妙である。トード氏の世界には人間が存在する。漫画チックな動物達が擬人化された言動や行動をするのは、別に特別でもないし有り触れている。ところが、人間が登場する場面から途端に珍妙な事態に陥る。



 トード氏が裁判に出頭する際人間達は実際の大きさで、動物達も実際の大きさなのだ。トード氏の豪邸を覗くと、そこは明らかに動物用にデザインされた隙間のない空間だということがわかる。そこで、大抵の方は動物や人間の身長差は微々たる差なのだと思い込む。ところが、人間サイズの住居に暮らすリスやアナグマが、郵便物を人間の配達員から受け取る場面で、その位置づけが崩れてしまうのだ。


 そうすると、全ての動植物が実際の大きさで活動する世界観なのだと理解するだろう。しかし、そうするとこれまた奇妙なことになる。人間達が実際の大きさで暮らしているのならば、なぜイタチの大ボスである人間がコミカルに描かれているのだろうか。また、イタチと寸分違わないのも変だ。この違和感はこの愉快痛快な物語には蛇足なのだろうが、どうしても気になってしまう。

 また、このトード氏自体はディズニーの長編アニメでも最難関と呼ぶに相応しい視聴ハードルを持ち合わせているが、彼に会うことはそれほど難しくはない。



 トード氏を拝める他の作品

ミッキーのクリスマスキャロル"Mickey's Christmas Carol"

 『ビアンカの大冒険』の同時上映として米国で公開された本作。過去に活躍したディズニー作品の短編のキャラクターを、チャールズ・ディケンズの名作『クリスマスキャロル』の登場人物に置き換えている。彼は若きスクルージ・マクダックがつるんでいた旧友役として登場している。





ロジャーラビット ”Who Framed Roger Rabbit”

 主人公である私立探偵のエディバリアントが、殺人事件の真相を確かめるべく車でトゥーンタウンへ赴くと、彼は交差点近くの電柱にぶつかる。その際に様々なキャラクターが一斉に溢れかえる場面で、愛用の車で爆走するトードさんが一瞬映る。ただ本作の場合、トード氏の鑑賞済みの方なら悪党に仕えるイタチのギャング団の活躍に注目がいくので、彼を見逃しやすい。


 次に、イカボード編の紹介。


 こちらは日本でも映像が販売されており、作品自体の知名度も高い。クライマックスを飾る首なし騎士とイカボード先生の追跡劇は、『ダンボ』に登場するピンクの象や『ピノキオ』に登場するコーチマンと同様に、ディズニーアニメのトラウマとしてファンの間で語り継がれている。


 前半では、田舎町のニューヨークに越してきた新任教師イカボード・クレーンの陽気な姿と、美女と野獣のガストンを想わせるブロムとの女性の取合いが描かれている。イカボード先生は大食らいだが、カカシと見紛うほど痩身で、人気取りが大変巧妙だ。街にたむろする男たちがブロムを恐れて村長の一人娘から手を引く中、怖気づくことなくマイペースに彼女を口説くイカボード先生は非常にコミカルだ。
※パンツではなく、ハンカチです。

 それと同時に、彼が愚劣の極みであることを思い知る。ブロムは善人ではないが、決して悪い奴じゃない。恋敵や邪魔者を威嚇して蹴落とすことはあっても、暴力は振るわなかった。イカボード先生の天狗鼻をへし折ろうとしたこともあったが、失敗に終わっている。ところがイカボード先生の場合、描き方が面白可笑しいだけで人としてはかなり下衆だ。彼女を取り込もうする目的が親族の財産目当てであったり、ブロムを誑かす行為も妨害の度を越している。また、投げ渡されたハンカチに興奮したまま彼女の跡を尾行するのは、もはや変態の所業としか言いようがない。



 後半では、イカボード先生に対するブロムの復讐劇がメインとなる。ブロムが歌う【首なし騎士】のテーマ曲もさることながら、クライマックスでの追跡劇も素晴らしい。イカボード先生の弱みを握ったブロムがそこを執念深く突きつつ、何事もないように歌謡曲を披露する姿は、彼に対する恨みが篭っているせいか、見ていて微笑ましい。

 そして、人気のない真夜中の獣道で繰り広げられる首無し騎士とイカボード先生の追跡劇は、ディズニー随一の恐ろしさ。満月の夜空を背景に首なし騎士が空中で漂う瞬間は、今見ても衝撃的だ。イカボード先生はそんな緊急時にもいつもどおりの方法で修羅場をくぐり抜けようとしているが、彼の周囲は全て写実的な描写がなされている。

正直、イカボード先生の方が恐ろしい


 血しぶきこそでないものの、首なし騎士はやたらめったら刃物を振り回し、何度も何度も雄叫びを上げ続ける。恐怖の象徴として描写されているせいか、個人的には彼よりも恐怖の余り連れの馬と共に狼狽するイカボード先生の方が怖い。




 なお、本作はオムニバス映画である以上、羅列された作品には何かしらの関連性が必要なのだが、そういったものは一切ない。冒頭や終盤の映像では本棚から取り出した童話の一部というこじつけで、何とか納得させようとしているが無理がありすぎる。

 ハロウィーンの夜に是非。

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