私とカートゥーンと鈴と。: ザ・クリティック The Critic

ザ・クリティック The Critic

The Critic ザ・クリティック
1994-95,2000-01 (米) (TV-PG) 60/100点
OP・ED


 90年代は、有料放送局の普及や『ザ・シンプソンズ』による視聴者層の開拓によって、表現の幅が広がり、視聴層の年齢を問わない様々なジャンルの作品が誕生した。しかし、新規市場であるが故に、暗中模索の状態から抜け出せないアニメーションが多数存在した。上記の『ザ・シンプソンズ』や『サウスパーク』、『キング・オブ・ザ・ヒル』等の一種の伝説となったアニメから、片っ端から風刺や皮肉を取り入れただけの勘違いした作品や、枠組みから逸脱したかのような珍作がまで様々。

 今回は、その中の実験作のような作品のひとつ。

"A Star is Burns"『スプリングフィールド映画祭』より
日本では宣伝も放映も一切なかったものの、シンプソンズでのゲスト主演という形で、テレビ画面に一度だけお目見えしている。
 ※(なおこの回は、原作者マット・グレーニング氏がCriticのゲスト出演を"本作の視聴率低迷を打破するための露骨な宣伝"と捉えられたため、彼の名がクレジットに記載されなかった唯一の回となっている。)


 製作総指揮にはシンプソンズでお馴染みのジェームズ・L・ブルックスマイク・ライス。そして、制作スタジオもザ・シンプソンズと同じグレイシーフィルム。

本作の主人公ことジェイ・シャーマンは中肉中背の冴えない批評家。妻に逃げられたシングルファーザーで、彼の唯一の生きがいは映画を観ること。しかし、依頼を受けるのは一流の名作に泥を塗るような愚作や駄作ばかり。その上、スポンサー受けにしか興味のないプロデューサーからは、ただ映画を褒め称えろと指図される毎日。だから、彼の映画に対する本音はいつも「こりゃあ酷え!」"It Stinks!" の一言のみ。




 ウィットに富んだ台詞に、ホームドラマの趣きを感じさせるBGM、シスケル&イーバートに代表される批評スタイル。『ダリア』と同様にどこを切り取っても90年代の空気を感じさせる作風。米国のテレビ番組に少しでも馴染みのある方なら、一昔前のアメリカを懐古させるだろう。有名作品の後追い映画の一発ネタや、映画業界を直接揶揄した挑戦的な内容がウリの本作であるが、本作で最も素晴らしいのは"批評家"の存在そのものである。

 映画業界が腐り果てた日本ではあり得ないが、日本で言うところの淀川長治や水野忠邦、町山智浩、宇多丸等のコメンテーターや批評家がTV番組で映画を語ることは、90年代以前は当たり前のことだった。公開中の新作に対して、芸能人を絡めた宣伝要素もなく、お世辞を吐くこともなく真摯に語る姿は、アメリカでは一般的だった。そんな"一般的"な批評家を主人公にして、俳優とのスキャンダルやスポンサー企業への媚、少数派なら直ぐ意見を曲げる姿勢を揶揄した『The Critic』はその時代に打って付けのアニメであるはずだった。

 しかし、90年代後半からは『ビーバス・アンド・バットヘッド』ような直感的な意見が重視されるようになり、彼のような批評家や新聞のコラムやネットの海に移っていき、気づかないうちに消えていった。Youtubeやニコ動、SNS等で気軽に意見を交わせる時代となった現在では、"彼"のような存在は絶滅危惧種といえる。ソファに座り、時には感情的に、時には冷静に映画を真摯に語る姿は、情報が錯綜する現在だからこそより価値のあるものだと思う。

この作品で唯一残念なことは、やはりシンプソンズとのコラボ回の存在。シンプソンズは他の作品に公認、または敬意を払うことがあってもゲストキャラが登場する際は、数分のギャグに対する隠し種のような扱いが普通だった。ところが彼は、シンプソン一家と同等の高待遇だった。マイケル・ジャクソンを精神病棟行きにするほど過激な『ザ・シンプソンズ』でこの状況は正に異常だった。打切り寸前の頼みの綱だとしても流石に無理があった。まあ、制作側がその罪滅ぼしにシーズン8で彼を精神病棟にブチこむから、まあいいかな?

 シットコムとして笑わせつつ、揺らぐことのない信念を持った知識人の存在の必要性を説いてくれる秀作。

 

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