私とカートゥーンと鈴と。: 私が『チキン・リトル』を嫌う五つの理由 Chicken Little

私が『チキン・リトル』を嫌う五つの理由 Chicken Little

チキン・リトル Chicken Little
2005 (米) 10/100

監督 マーク・ディンダル
脚本 スティーヴ・ベンチック
    ロン・J・フリードマン
    ロン・アンダーソン
原案 マーク・ディンダル
    マーク・ケネディ
製作 ランディー・フルマー

 一部のディズニーアニメが好きな方から極端に嫌われる作品がある。それは、2005年公開のCGアニメ『チキン・リトル』だ。親友を熊に殺された人間と、人間によって苦しめられた熊との友情を描いた『ブラザー・ベア』を最後に、本家ディズニー(WDFA)の長編アニメーションの公開が無かった。その矢先に、ディズニー初のCGアニメーションとして登場したのが本作だった。

 個人的にはディズニー長編作品で最もつまらない作品ではない。内容単体でいえば、『おしゃれキャット』『コルドロン』の方がよっぽど退屈だ。ただ、ディズニー映画の中で一番嫌いな映画と聞かれれば、有無を言わずに『チキン・リトル』の名を挙げるだろう。物語や展開のみに絞れば、家族や友達間の愛や友情を扱った秀作という印象を受ける。しかし、全体的に見ると、口にも出したくないほど嫌なアニメーションとなる。

 今回はその理由を淡々と書いていく。

予告編



王道のストーリー、究極の薄味。
 どこを切っても金太郎、薄味の千歳飴。意外性も物語も重さもない。普通の寄せ集め。"王道"と"ありきたり"には決定的な違いがある。ピクサー映画の『ファインディング・ニモ』を例に取ってみよう。本作は、ダイバーに誘拐された一人っ子(生物的に雄か雌かは不明)を過保護な父親が救うという単純明快な物語である。筋書き自体は単純でこのままなら凡作だが、本作にはクラゲの大群・菜食に奔走するサメ・矯正済みの少女・カモメの大群等の困難を付け加え、知的障害の相棒ドリーを仲間に加えることで、親子の愛を現実的に、印象的に映し、説得力のある映画として仕上がっている。その証拠に、お涙頂戴の感動モノが大好物の日本人が一番鑑賞したピクサー映画は『ファインディング・ニモ』となっている。また、『怪盗グルー』シリーズのミニオンのようなマスコットありきの映画ではない。(続編の『ファインディング・ドリー』はそうなったけど。)

 それに対し、こちらの筋書きは"失敗続きの少年が地球を救うヒーローになる"という展開があるだけで、それ以外の要素はちぐはぐで余計なモノに感じ取れてしまう。





②技術的にもきつい。

 ディズニー映画の公式パンフレットや解説本には、【ゴムの如く伸び縮みするカートゥーン調のアニメーションに挑戦し、その試みに見事成功している】と記載されていた。ところが、同年公開のドリームワークス作品『マダガスカル』と比較すると明らかに見劣りする。

 努力したことは確かだが、結果的には劣化したような印象を受ける。特に、肌の質感が『チキン・リトル』の方が生理的嫌悪感が強烈なのは頂けない。登場キャラの動物をトゥーンに見せるなら、鳥の羽や毛皮のモコモコを中途半端に追加すべきではなかったはずだ。写実的な質感とアニメの境界線が目視ではっきりと判るのははっきりいって気味が悪い。特に前半で散々見せつけた擬人化された動物のカートゥーンの世界観が、後半でまるで無かったかのように様変わりしているのは残念で仕方ない。一度に2つの世界を展開させたいなら、まともなものを一つだしてくれよ。

 『マダガスカル』のデザインを見ればわかると思うが、あちらの毛並みや肌の質感はほぼ平坦に見せようとしている。主人公のアレックスのライオンの"鬣"たてがみや毛並みも自然に映っている。また、ニューヨークの市街地とマダガスカルという孤島の大自然の2つの世界で活躍しても、動物たちの面影が変わりないのだ。

 制作費ではマダガスカル側の方が25%ほど高額なものの、ディズニー側が"CGアニメ第一作"を掲げている以上努力が足りなかったとしか言いようがない。



③世界観を統一させろ

 2018年の現在なら、"擬人化された動物の街"と聞けば猫も杓子も『ズートピア』と応えるだろうが、公開前までのディズニー映画でいえば『チキン・リトル』『ロビンフッド』の二者択一だった。『ズートピア』のように、ケモナーとディズニーファンを歓喜させるほどの拘りと研究によって世界観を構築していれば、基本的には問題ない。しかし、こちらはどうも怪しい。宇宙人のような予想外の敵には目を瞑るとしても、舞台設定や小ネタに安直さが表れている。

 例えば、主人公とその仲間の3匹のじゃれ合いの中で金魚のキャラが『キングコング』のゴリラを真似ている場面がある。ハリウッド映画の十八番ネタを拝借するなら、もっと人間の存在に触れないギャグを入れろと言いたくなる。決定的なのは、観客が映画館で『インディ・ジョーンズ』を鑑賞していると、途中で映画内映画の仕掛けが映画館に飛び出すというギャグ。

 "動物しか存在しない"設定で、何故人間を登場させる必要があったのかと勘ぐってしまう。しかも、製作当時はルーカスフィルム買収前。つまり、しょーもないギャグのためにわざわざ映像使用料を支払っていることとなる。

 この辺りの乱雑さは、監督の過去の経歴を見れば見るほど信じ難いと想わせる。『キャッツ・ドント・ダンス』『ラマになった王様』の頃の冴え渡るギャグセンスはどこへやら....

④父親に共感できない。

 失敗続きのチキン・リトルを息子に持つ父親の教育指導が酷い。野球の試合をするにも、異変に気づいてチキン・リトルが行動を起こすときも、父親がその行動の一つ一つを必死に止めようとする。親としては二度と恥をかかせないようにするための配慮なのだろう。しかし、チキン・リトルの精一杯の弁解も努力も聞き入れずに、ただ蔑ろにする彼の姿は正直同情できない。追い打ちをかけるかの如く、亡き妻に縋るのだからなおさらだ。その結果、本編終盤でチキン・リトルと父親が心を分かち合った素振りを見せていても、説得力が低すぎて納得いなかった。

⑤後追い感全開の題材を投入するな

 そして、極めつけがこれ。映画全体が商業主義に毒された状態で企画が進行したと確信できる節があるため、かなり腹立たしい。

 90年代後半から2000年代前半のアメリカのアニメ市場にはテレビアニメ原作の劇場用アニメが大変多かった。スポンジボブ以前のニコロデオンの顔『ラグラッツ』、小学生の日常を描いた『ダグ』に『リセス』に『ヘイ!アーノルド』、カートゥーンネットワークの『パワーパフ・ガールズ』、RやPG指定では収益をあまり期待できないはずの『サウスパーク』、『ビーバスアンドバットヘッド』、そして日本発の『ポケットモンスター』や『遊戯王』、『デジモン』など。

 これらの映画は、米国国内においてディズニー映画の独占状態を麻痺させるほど大ヒットした。特に、ディズニーが得意とする高品質のフルアニメーションの制作費の半分以下の費用で、同等かそれ以上の利益を生み出していた。そのため、ディズニー(ここではWDFA:長編アニメーション部門を指す)やドリームワークス等②の伝統的なフルアニメーションを定期的に公開するスタジオに危機が迫った。

 その結果、子供の客層から既に支持を得た映画が安定的に売れるという日本ではお馴染みの構図が米国国内で一般化していった。その影響は結果的に上記②のスタジオには不利益を齎すこととなる。また、ディズニー本社では当時の最高責任者マイケル・アイズナーの方針で進められていた過去のWDFAの続編を粗製乱造の動きは加速していった。その影響で、ディズニー本社ではOVAとWDFAの新作同士で牌の取合いをすることとなっていった。

 そして、WDFAやドリームワークスではそういった子供ありきの映画と差別化する為に、意図的に大人の鑑賞に耐えゆるアニメーションに注力する傾向が現れた。あの頃の手描きの長編アニメは何かと舞台が壮大で高貴な作品が多かったのはそのため。結果的にWDFAでは『ダイナソー』、『ファンタジア2000』、『トレジャー・プラネット』、『ブラザー・ベア』などを公開したが、興行的に成功したのは『ダイナソー』(2)のみだった。



 なおドリームワークスでも、CGアニメでは皮肉とパロディが売りの『シュレック』は見事成功したものの、2Dアニメーション部門では『エルドラド 黄金の都』『スピリット スタリオン・オブ・シマロン』、『シンドバット 7つ海の伝説』の全てが興行的に失敗している。

 その失敗に追い打つかの如く、家庭での視聴がメインとなるディズニー映画のOVAの続編群が、劇場用に昇格されるという前代未聞の事態が発生していた。(なお、日本では『ピーターパン』の続編のみ全国ロードショーとなった。)これを受けて、ディズニーでは掌を返すかと如く『ブラザーベア』とは趣が全く異なる映画を公開した。それが『ホーム・オン・ザ・レンジ』である。全ての動物が歌って踊る古典的なカートゥーンを彷彿とさせる古臭い題材と、子供向けしか端から狙っていない展開や演出は興行・批評共に最悪だった。

 その後、子供向けの新たな策と言わんばかりに本格的なCGアニメーションの技術がディズニーに導入された。その結果誕生したのがこの『チキン・リトル』だった。つまり、本作は端から大人は範疇になく、子供達を満足させればそれで充分だったのだ。

 なお、調査する前までは、CGアニメーションに慣れた米国を始めとした全世界でヒットしたのかと思ったが、意外なことに日本国内の興行(1)も成功していた。

(1)『チキン・リトル』の興行収入は日本で26.8億円。日本公開の前作『ブラザー・ベア』は16億円、前々作の『トレジャー・プラネット』は10億円を下回っていた。


 子供の頃でも今でも、この映画で好きなのはキャッチコピーだけ。

米国の"The End is Near"と日本版の【ディズニー史上 ー 最もツイてない主人公】

 WDFAが閉鎖の危機に陥った状態を揶揄したような米国版のセンスと、日本版の主人公に背負わされた重圧を物語と現実に反映させた掛詞のセンスは、今でも面白い。

  

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