私とカートゥーンと鈴と。: タンタンの冒険 呪われた湖の謎 Tintin et le lac aux requins

タンタンの冒険 呪われた湖の謎 Tintin et le lac aux requins

タンタンの冒険 呪われた湖の謎
Tintin et le lac aux requins
1972 (白・仏・瑞合作) 50/100
監督 レイモン・ルブラン
脚本 ミシェル・レニエ
撮影 フランソワ・レオナール
音楽 フランソワ・ローベ
制作スタジオ  ベルヴィジョン・スタジオ

スウェーデン人とフランス人の血を引くトーベ・ヤンソンが、スウェーデン語で記した作品でも何故かフィンランドの国民的象徴となることがあるように、ベルギー生まれのベルギー語出版の新聞漫画がフランスの国民的象徴となることがある。

 今回はそんな作品。

予告編

あらすじ

  •  美しいシルダビアの湖畔に住むビーカー教授の招待を受け、やって来たタンタンたち。しかし、教授が発明した立体コピー機の試作品を何者かに盗まれ、さらに村の子どもたちまでさらわれてしまう。タンタン、ハドック船長、スノーウィにも迫りくる危機……。悪事を操る黒幕とは?そして、タンタンたちは子供たちを救いだすことができるのか?.
1907年にベルギーで産まれた漫画家エルジェ。本名ジョルジュ・レミ。彼は中学の頃から商業的にイラスト描き続け、1923年より『ベルギー・ボーイスカウト』誌に作品を発表する。1928年に新聞の若者向けウィークリー増刊号【プチ20世紀】のチーフ・エディターとなり、翌年『タンタン、ソビエトへ』の連載漫画が同紙に掲載。またたく間に人々の人気を博し、以後24話のタンタン冒険シリーズを残す。ヨーロッパ・コミックの父と称される彼の作品は、今日においても様々なアーティストに影響を与え続けている。

 そんな彼の代表作の『タンタンの冒険』は歴史的にも、芸術的にも、そして物語も興味深い作品となっている。舞台となる国は、事前に社会的背景や地理情報を徹底的に調査している。例えば、満州事件の水面下で物語が展開される『青い蓮』ではゴセ神父という人から"ステレオタイプな中国を描いてはいけない"と指摘され、中国人留学生のチャン・チョンジェン"張充仁"を紹介される。漫画に登場している中国人青年のチャン(張仲仁)はこの人がモデルである。逆に、敵役のミツヒラトの日本人描写があまりにも差別的であるが、30年代でこのような配慮がなされていたのは先鋭的だと言える。また、新聞連載の影響からか、一枚絵で世界観を伝えることの多いバンドデシネでは珍しくコマ割り形式となっている。



 今回紹介するアニメ版タンタンは劇場用2作目となっており、タンタンの映像化作品では唯一直接的な原作がなく、完全なオリジナルストーリーとなっている。ベルヴィジョンスタジオが製作に関与した長編のタンタンとしての大きな特徴は3つある。それは、作画と声優、そしてギャグの方向性だ

タンタンとスノーウィはエルジェスタイルだが
背景全体は写実的で違和感が強い。①
作画自体は大変質が高いものの、動植物以外の物体と背景の描画は、アニメキャラには欠かせない黒い輪郭線がなく、漫画調とはかけ離れた写実的なものとなっている①(本編抜粋)。また、舞台となる現地の子供達は明らかにディズニーを意識した描写で、スノーウィ以外の動物は皆カートゥーン調だ。この時点で"バンドデシネのタンタン"の面影はほぼない。
こちらは人物だけでなく動植物・背景を含めて
原作と瓜二つのデザインとなっている。②
2018年現在では、1991年に本作の製作元とネルバナとの合作である『タンタンの冒険』(1991)②のテレビアニメの方が世間に深く浸透しているため、この要素が余計に目立っている。漫画調の人物と背景がに溶け込まない状態は、彼らを見窄らしくさせている。

 次に声優。実はこの作品、日本語版が2つ存在する。一つは大御所声優の三ツ矢雄二氏がタンタンを務める日活版と、日本語版テレビアニメではお馴染みの草尾毅氏がタンタンを務めるカートゥーンネットワーク版だ。詳しくはこちら また、英語版音声は愚劣極まりない仕様となっている。米国の配給側は、ハドック船長の口調をポパイを連想させる声色に近づけており、見ていて大変苛つきやすい。ここらへんの改悪は、芸能人起用の方向性と似た乱雑さを感じられる。

 そして、ギャグの方向性。『タンタンの冒険』の持ち味であったもの。只の事件記者であるはずの青年が敵の脅威を考えずに果敢に飛び掛かるアクションと、個性が飛び抜けて豊かなキャラクターたちの掛け合い。その2つの要素がこの映画にはない。

③ビーカー教授
本作の悪役で原作にも登場した宿敵ラスタポプロス。彼の人物描写は間違いなくボンド映画の悪役から触発されたものなのに、視覚的もといハンナ・バーベラ・プロダクションが得意とするスラップスティック・コメディの応酬でその魅力が相殺されている。子供を対象にしたアニメーションにしては、物語の展開がややこしい。それなのに、悪事やタンタンとその仲間たちの冒険が希薄だ。
 また、ビーカー教授③の難聴癖が一二を争うほどイライラさせるものへと変貌している。原作の時点で『MR.マグー』の盲目ぶり以上に酷い迷惑ぶりであったが、この映画ではジョークの域から越している。

 原作を気にしない、見たことがない方であれば以上の要素は気にせずに楽しめるものの、"タンタンの冒険"のアニメーションという枠組みを考慮すると、少し複雑な気持ちになる一作。

  

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