私とカートゥーンと鈴と。: 世界平和を説く奇妙奇天烈な一大長編『コズミック・アイ』"Cosmic Eye"

世界平和を説く奇妙奇天烈な一大長編『コズミック・アイ』"Cosmic Eye"

コズミック・アイ Cosmic eye
1986 (米) 72分 70/100
DVDパッケージ絵

監督
 フェイス・ハブリー
 ジョン・ハブリー(初期のみ)
キャスト  
 ディジー・ギレスピー 
 リンダ・アトキンソン
 サム・ハブリー
 モーリーン・ステープルトン
音楽
 ベニー・カーター、 エリザベス・スワドス

あらすじ

  •  地球外生命体のジャズ・ミュージシャンの3人組が、地球人の観察を始めた。”母なる地球“と“父なる時間”による人類への制裁措置を加えるか否かの判断材料として...


今まで観た映像作品の中で最も奇妙な"もの"だった。
最もユニークで形容不可な世界観を構築したアニメーターは誰かと問われれば、私は間違いなくフェイス・ハブリー①であると応える。シュールな映像といえば、大抵破壊的で不条理な物体を登場させたり、一般常識からの枠を外れた非常識を放り込めば、成立するものだが、彼女の描く世界にそういった要素は全く無い。
 ロシア系ユダヤ人の移民として渡米したフェイス・ハブリーは、音楽・効果音の編集者として18歳の時にコロンビア映画で働いていた。その後、2018年現在パラマウントの傘下の一つ、リパブリック・ピクチャーズの書記官に就任する。

 その後、1955年にディズニーの哲学と労働環境に異を唱えたUPA出身のアニメーター・ジョン・ハブリーと結婚する。ジョンとフェイス・ハブリー氏は宣誓で【子供と共に食事をする】そして【1年毎に新作映画を作ろう】とお互いに約束した。


そして、1955年にStoryboard Studioを設立すると、ジョンとフェイス・ハブリーは1977年に彼がこの世を去るまでその約束を破ること無く、アニメーションを作り続けた。その作業には、育児を疎かにしないため、そして子供達との信頼関係を築くために、彼らの子孫にも製作に関与させていた。例えば、1959年にアカデミー短編アニメーション賞を受賞した短編『ムーンバード』"Moonbird"②では登場する子供達は彼らの子供達で、商業用とはかけ離れた作風でありながら、全体的な内容は子供達にも共感を覚えるものとなっていた。

 そして、フェイス・ハブリーは1976年から彼女がこの世を去る2001年の間に、24本のアニメーション映画を完成させた。彼女が監督として手掛けた後期の作品は、抽象的な映像や非線形のストーリーを採用することが多い。

③『Enter life』

 アニメーションの研究史を閲覧すると、ジョン&フェイス・ハブリー、またはハブリー夫妻と紹介されることの多い彼女だが、本作に限って言えば作風はジョンの趣は完全に消えていおり、彼女の独壇場となっている。というのも、スミソニアン博物館やこども美術館の依頼でフェイス・ハブリーが製作した1981年の『Enter life』や1988年の『Who am I?』のアートスタイルは本作のものと同一であったからだ。

 また、ジョン・ハブリーとしての性格が垣間見れる短編作品は1974年の『Voyage to next』を最後になくなっている。1959年にアカデミー賞を獲得した『ムーンバード "Moonbird"』以降の彼の作品は、過去のデザインを再利用したものや、1966年に放映開始したセサミストリート用の短編アニメーションなど、芸術性の模索を既に諦めていたような印象だった。『Cosmic eye』の完成を見届けること無く、1977年にこの世を去ったジョンにしてみれば、体力的に限界だったともいえるが。

 それに対し、フェイス・ハブリーは80年代になるとリミテッドアニメーションから始まった芸術性の極地を極めており、この『Cosmic eye』はその頂点に達したと言える。『ムーンバード』と同様に劇場公開を端から狙わない、完全個人主義のアートフィルムとなっており、本作はいわば"動く近代絵画"と言えよう。

 全体の半分を構成する、枠線も絵の具の形跡もない特殊なアニメーションの秘密の一つは、撮影方法にある。

 デジタル作画以前の従来の手描きアニメーションでは、上部のカメラから照らされたセルロイドの絵を撮影するのが基本で、その絵を重ねれば重ねるほど複雑な映像が生成させる。ところが、彼女の場合は、紙に描かれた絵を下の照明から照らし、色彩豊かな影絵の状態の上部の紙をそのアニメーションに使用するという、特殊な技術を採用している。

 ディジー・ガレスピー、クインシー・ジョーンズ、ベニー・カーター、ライオネル・ハンプトンが提供したジャズ・ミュージックは、生きる惑星・動植物・民族文化を強調させる最高のエッセンスとなっている。映像の魅力を押しつぶすこともなく、その逆もなく、ちょうどいい塩梅となっている。

 本編では、愛、健康、教育などへの子供の権利、荒廃した世界、人類が犯してきた罪(アウシュビッツ、広島原爆、児童労働)とその贖罪する場面、そして世界各国の民族的象徴を"フェイス風"に具現化している。物語全体のメッセージ性は決して強いとは言い難いものの、ジャズ音楽を添えた個々のメッセージは非常に胸打つものとなっていた。




 なお、芸術性を極限まで高めた映像であるが所以に、頭を空にして気楽に観ようしても、視聴後の疲労は途轍もない。私が本作の鑑賞していた時、偶然居合わせた友人が興味本位で観始めた。しかし、上映20分後にはルドヴィコ療法で発狂するかの如く、彼の表情に恐怖心が表れていた。


 アニメーションの芸術性を研究する方には是非見てほしい一作。

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