私とカートゥーンと鈴と。: 原点回帰で完全新作。『フィリックス』"Twisted tales of Felix the cat"

原点回帰で完全新作。『フィリックス』"Twisted tales of Felix the cat"

フィリックス Twisted Tales of Felix the Cat
(米)1995-1997 85/100

原作 パット・サリバン、オットー・メスマー、ジョー・オリオロ
製作総指揮 ドン・オリオロ、フィル・ローマン
製作 ティモシー・ビョークランド
声優 トム・アドコックス・ヘルナンデス、チャーリー・アドラー、クリー・サマー
テーマ曲作曲家 ドン・オリオロ、ネイサン・ワン
2シーズン

 世界一有名なキャラクターことミッキー・マウス。そんな彼が11月に生誕90周年を迎える中、長い芸歴に対しての知名度がイマイチな先輩がいた。その名はフィリックス・ザ・キャット。今年の11月9日に白寿を迎えるご高齢マスコットだというのに、ミッキーマウスほどの貫禄はない。何故か?

オットー・メスマー氏
のフィリックス
  一番の原因は過去の栄光に縋った映像作品にある。パット・サリバンとオットー・メスマーの黄金コンビが創り上げたフィリックス①は続編が147本製作された。
 名門野球チームのニューヨーク・ヤンキースの公式キャラクターや、リンドバーグが大陸間無着陸飛行での心の手助けを担い、米国海軍の戦闘機に表記されるほど、年齢・職業を問わず幅広い人気があった。第一次世界大戦終戦後の合衆国内の好景気を象徴するキャラクターだたと言える。
 しかし、サリバンの死・音声技術を導入したライバル他社の追い上げ・非公式の関連商品によって、新作の続行は困難となり、フィリックスの人気は凋落する。


バート・ジレット氏のフィリックス②
1936『Neptune Nonsense』より
権利的問題を解消したフルカラーのフィリックス②は、原作者のパット氏の協力を得られないまま製作され、その結果は散々なものだった。決して悪くない出来だが、ライバルを蹴落せるほどの革新性と視聴者の意表を突けるほどの意外性はなかった。
 結果としてバート氏のフィリックス・ザ・キャットは三作品のみとなり、この時期に公開したフィリックスは大衆の記憶を忘れさせる決定打となってしまった。



ジョー・オリオロ氏のフィリックス③
フィリックス・ザ・キャット』より
そんな彼の人気が復活するのは第二次世界大戦後の1958年。『ポパイ』『おばけのキャスパー』『リトル・ルル』『ベティ・ブープ』等のパラマウント映画の作画班として目覚ましい活躍をしていたジョー・オリオロ。メスマーの助手を務めていた彼によって生まれ変わったフィリックス③は、テレビ放映とそれに相応しい万人受けする可愛らしい設定で高い評価を受けた。現在で見かけるフィリックス・ザ・キャットの大半はこのデザインが基本となっている。


 一般的な書籍や紹介番組ではここで完結するが、これにはまだ続きがある。

 その約三十年後の1988年にはジョー・オリオロ氏の設定を継承した『フェリックスの大冒険』が公開された。しかし、この映画はフィリックス・ザ・キャット史上最大の汚点となり得るほど悲惨な作品だった。

④ティボル・ヘルナディ氏のフィリックス
"Felix the Cat: The Movie"より
採算性の高い商品としか認識しない経営者側の判断が災いし、興行収入も作品の満足度も地を這うほどの映画となってしまった。60年代に流行したフィリックスを流用しただけの安直なデザイン。費用を安価に抑えるべく製作拠点をドイツに、動画制作をハンガリーに外注。脈絡も筋書きも乱雑で見るに堪えない代物と化していた。
 バート・ジレット氏以上の歴史的悲劇に落胆した大衆とフィリックス愛好家は再び冷遇し始めた。

そんなフィリックスの二度目の暗黒時代に希望の光を浴びせたのが、この『フィリックス』こと “Twisted Tales of Felix the Cat”である。

オープニング



"原点回帰"という名の"完全新作"

 1994年の製作当時、フィリックス・ザ・キャットの人気を率いてきたクリエイター、オットー・メスマーとジョー・オリオロは既に他界。ジョー・オリオロの息子のドン・オリオロはロック・ミュージシャンとして高い評価を得ていたものの、絵そのものは専門外。

 そこで登場したのがベテランアニメーターのフィル・ローマン。チャック・ジョーンズが指揮するスタジオ【Sib Tower 12 Productions】にアニメーターとして就職し、『いじわるグリンチのクリスマス』や『宇宙のはてのそのはて』等のドクター・スース原作のアニメや、『ピーナッツ』のテレビ特番の作画に参加。後年には独立し、『ガーフィールドと仲間たち』『トムとジェリーの大冒険』『マスク・アニメーション』等の製作総指揮、『ファミリーガイ』『キング・オブ・ザ・ヒル』の製作として名を馳せていた。

 その結果、ドン・オリオロは導入部分の音楽担当として制作に参加した。彼の役目は一部分に過ぎないが、その音楽は番組の方向性を明確にしている。ギターの音色とボーカルは、無声映画時代特有のフィリックスの夢世界を詳細に描写したような本作には格好の素材だった。

 本編の内容は数式で言えば、{(パット・サリバン+オットー・メスマー)+ジョー・オリオロ}×フィル・ローマン+ドン・オリオロである。過去作品への敬意を示しつつ、ローマン自身で見事にその魅力を増幅させている。そしてオープニング担当のドン・オリオロは本編全体を音楽で抽象的に表している。

オットー・メスマーはかつて、無声映画時代のチャップリンが得意とする演技と作品毎に細かい設定が異なるフィリックスこそが唯一のフィリックスだと説いていた。しかしまたしても、ジョー・オリオロと同様に彼はその法則を打ち破ったのだ。
 脈絡もなく突然舞い込む視覚的・口語的情報はその多さと複雑さで、シュールレアリズムの本質を垣間見るような感覚を与えてくれる。

本作のフィリックスは過去作同様に明確な年齢は決まっていない。ただし、幼い子供を想起させるような純粋さと健気な風貌ではなく、ハンナ・バーベラ期の『トムとジェリー』の初期のトムに類似する毛並みが目立つ青年期のオス猫のような風貌である。(性格が一番近いキャラはソニックザヘッジホッグ辺りかな?)そのうえ、子供らしさを全面に押し出したジョー・オリオロ版の新設定だった魔法のかばんやポインデクスターが登場する。

 ちなみに本作の脚本担当だったコメディ作家はこんな映画をプロデュースしており、本作の経験は彼にとってかなり印象的だったと伺える。

 オープニングやサブタイトルの画面では無声映画時代のフィリックスらしさが随所に盛り込まれている。オープニング終盤では3DCGで構成されたフィリックスの象徴ともいえる地面を見つめてトボトボと歩く姿が映り、その後画面の小さな丸枠に満面の笑みを見せつける。この部分だけでも往年のファンでも納得できる作品となっている。

 クラシックカートゥーンの敬意がこもっているものの、本作の雰囲気に最も類似するのはフィリックスではなく、個人的には『Cuphead』『The Adventures of sonic the hedgehog』だと伺える。理由としてはアメリカの路地裏の汚さを彷彿とさせる雰囲気に近いからだ。キャラクターや脚本・設定こそ刺々しいものの、背景画は"微妙に"古典的で、日焼けした紙の束を想起させるような"90年代のテレビ用カートゥーン"っぽい。(『レンとスティンピー』や『カウアンドチキン』の余白を想い出してもらうと解りやすいかも。)

 これ以降、白黒時代を彷彿とさせる狂気を堪能できるフィリックスが製作されることはなく、未就学児向けの逆輸入アニメ『ベイビー・フィリックス』(2000)や60年代のフィリックスを発展させた『フィリックス・ザ・キャット クリスマスを救え!』(2004)に流れてしまう。

 日本オリジナル版の『ベイビー・フィリックス』はオープニングの作曲をドン・オリオロ氏が担当しており、未就学児向けという枠組みであれば素晴らしい作品である。しかし、ジョー・オリオロ氏のフィリックスを青年という設定に変更できるほど幼児退行した彼の姿を見ると、複雑な気持ちになる。(知育アニメは大体そういうものだけどさ...)

 現代で普及した性格のフィリックスに嫌気が刺す訳ではない。予測不可能な動き常識を覆し続けたサイレント時代の彼の勇姿を知れば知るほど、途轍もないことを彼に期待してしまう。60年代のフィリックスも当時は斬新で面白いからこそ受け入れられた。ここまでとは言わずに、せめて何かしらの変化球がほしい。

 日本語吹替版VHSあり/DVDなし、北米版DVDあり
 

0 件のコメント:

コメントを投稿

人気の記事