私とカートゥーンと鈴と。: 西洋かぶれでも律儀で崇高な象の王様。『ぞうのババール』Babar

西洋かぶれでも律儀で崇高な象の王様。『ぞうのババール』Babar

ぞうのババール Babar
1989-1991,2000(加) 75/100
原作 ジャン・ド・ブリュノフ
監督 レイモンド・ヤフェリス、ローラ・シェパード、デイル・ショット、ラリー・ジェイコブス
企画 マイケル・ヒルシュ、パトリック・ルーベック、クライヴ・A・スミス
音楽・テーマ曲担当 ミラノ・キムリカ
制作会社 ネルバナ、エリプスプログラム、クリフォード・ロス
6 シーズン 78話

カナダで最大規模を誇るアニメスタジオ、ネルバナ。その知名度を確固たるものにし、国際的信用を飛躍的に高めた彼らの代表作の一つ。(もう一つは『タンタンの冒険』)原作はローラン・ド・ブリュノフが執筆した絵本。彼の父親のジャン・ド・ブリュノフは奥さんが子供達に聞かせていた創作話を元に、擬人化された象の物語を完成させた。彼の死後にローランが再編集した作品が本項で紹介するアニメの直接的な原作である。

 ネルバナは70年代に設立され、アメリカ産アニメの下請けとして活躍していた。80年代初頭の『ロックンルール』の記録的大失敗により倒産の危機を迎えることもあったが、『ケアベア』のアニメシリーズの成功により復活を遂げたのだった。1989年から放映開始されたこのネルバナ版『ぞうのババール』は原作のイメージを大きく膨らませている。

 テレビアニメが本格的にアメリカに浸透しつつあった60年代。アニメの内容に対して、子供持ちの保護者からの苦情が大量に寄せられたという。国民的アニメの主役級の登場人物が喫煙・飲酒推奨を謳う姿①や、劇場用アニメの描写をほぼ無修正で放映した作品(トムとジェリー、ミッキーマウス等)には非難轟々であったという。制作側はその苦肉の策として、60年代末期から刺激の強い表現を排除する傾向に走っていった。

 そんな騒ぎを他所に、70~80年代の日本を始めとした周辺国のアニメ産業の発展は著しいものだった。特にフランス語と英語を公用語とするカナダは、国際展開が容易に実現できる環境であった。(カナダは日本ほど表現規制が緩くはないものの、西洋諸国の表現の境界線では比較的良心的な区分である。) 国内外で収益を上げるための産業の一部として政府側が認識したこともあり、カナダ政府は映像産業を積極的に貢献してきた。...まあ、ハリウッドほどは国益に繋がっていないが。

①原始家族フリントストーンの煙草の宣伝広告

 家事をこなす妻の姿にうんざりして、視界に触れない場所で煙草を吸うバーニーとフレッド。

 現実でもフィクションでも王様というとその財産や権力に溺れた姿を晒すことが多い。女王がいれば王様は条件反射の如くとぼけて、馬鹿には見えないと謳われれば裸にだってなる。性格付けとしてどこかヌケているなら冗談ですむが、そんな王様は見苦しいだけ。ぞうのババールは若くして密猟者の被害によって母親の命を失くした身。しかし、人間に干渉できないバンビや結局は権力を掴み取るだけのシンバなどの"腑抜け"どもとは全く違う。彼は外界を知り、正々堂々と相手を制裁する王様だ。

 原作の表現は西洋諸国の植民地支配を正当化しているとフランス国内で批判が相次いだ。ただババールでの彼らの描写は、ホワイトウォッシュを受けた先住民というよりは、西洋文化を理解して自国の発展に貢献したハワイ王国のカメハメハ大王やチャンクリー王朝(現タイ王国)のラーマ4世に"それ"に相当する。結果的に頭ごなしに否定する人間達が、象やサイを隷属的に扱う種族だと認識しているのは最早阿呆としか言いようがない。なお、野生の象なのに王冠やメガネをなぜ被るのかは突っ込んではいけない。

 アニメでは王に就任するまでの部分を原作から引用し、それ以降はオリジナルの展開としている。貫禄のある王様となった大人のババールが自分の子供達に想い出話として語る。ババールはその経験と失敗を語り継ぐことで、道徳や知識を自分自身で再認識し子供達は学んでいくのだ。少年時代の彼は未経験ゆえの過ちを繰り返すが、その怒りを周囲にやたらめったらぶつけることもないし、ジャングルで暮らす他の動物との対話で感情を爆発させることもない。

 ささやかな朗読とそれを強調させる素朴なピアノ演奏が特徴的な『小象ババールの物語』には遠く及ばないものの、本作でも宮廷音楽やサバンナ気候に合う環境音は中々のもの。

教訓や価値観は不思議なほど自然で、文化圏特有の礼儀作法が癪に障ることもなく、フランス産絵本が原作とはいえ、日本でも受け入れやすいものとなっている。

 余談
スタッフロールで口から水拭きだしましたわ。

 本作のシーズン6に該当する66話から78話分には何故か講談社が製作に参加している。作画担当として日本企業が加わるアニメーションが日本国内で放映・上映されないのは日常茶飯事。ところが、本作の場合は日本企業が完全に販売側なのが不思議でならない。

 2000年には原作絵本の物語を中心にネルバナ自身で再構成した『ババール ぞうの国の王様』が日本国内でも上映された。ただ厄介なことに、その吹き替えはNHK版の配役に準拠していたのだ。(その影響からか、本作の日本語吹き替え版は玄田哲章さんがババールを演じるNHK版と、有本欽隆さんが演じるポニーキャニオン・現行版の二種類が存在する。)

 その頃のネルバナというと、ライセンス契約を締結しマッドハウス制作の『カードキャプターさくら』"CardCaptors"や『ベイブレード』"Beyblade"の北米向けローカライズを手掛けていた。『ぞうのババール』はその交換条件として権利を保有しただけだったのだろうか。日本国内での本作の広報活動は大々的とは言えず、NHKで厳選した13話が放映され、DVDこそ発売されただけでそれ以降の商業展開は不明。DVDを新規にプレスするほど販売に意気込んだのなら、初期の話も新訳で発売して欲しかったなあ...

  

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