私とカートゥーンと鈴と。: マット・グレーニングの原点。 『ライフ・イン・ヘル』 Life in Hell

マット・グレーニングの原点。 『ライフ・イン・ヘル』 Life in Hell

ライフ・イン・ヘル Life in Hell
1977-2012 (米)
※ポストカードの表紙

 生きることが罪であり、苦痛とするならば、このコミックはその教えを説くのに最適な教材となるだろう。

 『シンプソンズ』や『フューチュラマ』、『魔法が解けて』で人気を博したクリエイター、マット・グレーニング。ドイツ系アメリカ人として誕生した彼の生活には常に不満が付き物だった。常識という常識に異を唱えたこのコマ割り漫画のテーマは、社会への風刺や皮肉が込められているものの、地域性のない万国共通の事項として受け取れる。

 マット・グレーニングが提示する、愛、性別、仕事、死、精神的不安、社会的疎外、自己嫌悪などの哲学を彼なりの解釈で具現したのがこの"Life in Hell"である。この現実世界を題名の示す通りの"地獄"と捉えている。アメリカでの一般社会をネタにした漫画である故に、日本国内でその笑いが受けづらいものもある。が、『ピーナッツ』や『ガーフィールド』よりも共感できるだろう。こちらの紹介コミックを読めば一目瞭然だが、この漫画の世界観は辛辣でいて現実と密接に関わっている。

コミック訳文
【『ライフインヘル』って何?】
「楽しくて、陽気で、笑えて、くだらないことが詰まった可愛いコミックさ。」
「それに加えて、苦悩や疎開感、自己嫌悪、僕たちに待ち受ける運命の無意味さも描かれてるよ。」

【『ライフインヘル』で主題となるのは?】
「愛とセックスと労働と死とウサギね。」

【『ライフインヘル』は読者を怒らせますか?】
「最善を。」「尽くすよ。」「馬跳びしない?」 「うむ。」

【このコミックの主役は...】
「俺はビンキー。」「耳をじっと見ないでくれる?」
誰か:漫画の主役
際立った特徴:グロい耳に、頻繁に瞬きするベージュ色の目
精神状態:悲痛で憂鬱でも普通

【疎遠したビンキーの彼女...】
「シーバよ。」
「今生理中。」
誰か:うさぎではある
際立った特徴:基本的にゲイ
精神状態:いつもむっとしてるけど、たまにキレる。


【ちっこい二人組は...】
「彼がアクバー。」「彼がジェフ。」
「僕たちはアクバーとジェフだよ。」
誰か:兄弟で恋人同士
際立った特徴:瓜二つの顔とフェズ帽
精神状態:なぞ

【ビンキーの隠し子こと...】
「名前はボンゴ。」
「耳を見ないでくれ、頼むから。」
誰か:すげーどうでもいい
際立った特徴:当ててみて
精神状態:だ ま れ 。

【このキャラ達はコミックの中で幸せを掴むことがあるの?】
「愚問だね! ビンキーとその仲間たちは君たちと同じくらい幸せになるんだから!」

 シンプソンズで打ち出したフェイントジョークの嵐や遠回しに茶化すアメリカ式ユーモアに慣れていると、比較的直球勝負で相手を小馬鹿にする『ライフインヘル』が非常に新鮮に映る。ガーフィールドが平和的な日常で怠惰に過ごし、ピーナッツが子供たちの悩みを子供たちなり解釈するなら、ライフインヘルは常に殺伐としている。

 登場人物は疑問の対象に対して常に喧嘩腰だが、同調圧力によって理想とは程遠い状態になる。擁護する人間は皆無で不遇な状況のままだ。マット・グレーニングの愚痴とも感受できる不快な回も多数存在するが、彼の不満は決して的外れではない。

 過保護が原因で得意分野で活躍できない子供や、マイノリティには手厳しい職場、いじめっ子を庇う小学校など、その当事者に該当する人間でなければ、納得がいくものだらけ。正直者が馬鹿を見る現代社会で遭遇する人間性の負の側面。そこに重点的に描いた本作は『ブッタとシッタカブッタ』並に実践的で参考になる。

 コミックや漫画において文字と絵の比率が不釣合いになると、見栄えが悪くなる。日本でエッセイ漫画と言われる漫画の大半は、文字が絵を支配する事が多い。つまり、伝達したい情報が大量の文字に置換するだけでなく、漫画内のイラストの邪魔になる状態である。説得力のある粗暴なフォントで覆い尽くされた『毎日かあさん』がそのいい例だ。

 ライフ・イン・ヘルの場合、文字が侵食することを前提に比較的簡素なアイコンを配置しており、非常に読みやすい。ヒーローが活躍する大手のマーベルやDCの豪勢なイラストではこうならない。

 "謙遜こそ美徳"とし"場の空気を読む"ことを最優先にする日本と、自己主張の強い人間を支持するアメリカの価値観は異なるものの、かつて、またはこれから遭遇する事態の確認をするための教材として一読するのもありかも。

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