私とカートゥーンと鈴と。: エセルとアーネスト Ethel and Ernest

エセルとアーネスト Ethel and Ernest

エセルとアーネスト Ethel and Ernest

監督 ロジャー・メインウッド
企画 カミラ・ディーキン、ルースフィールディング、ステファン・ローランツ
原作 『エセルとアーネスト』著 レイモンド・ブリッグズ
主演 ジム・ブロードベント、ブレンダ・ブレティン、ルーク・トレダウェイ
音楽 カール・デイビス
編集 リチャード・オーバーオール
2016年 86分 イギリス


 レイモンド・ブリッグズの映像化作品と言えば『風が吹くとき』や『スノーマン』『ファーザークリスマス』のような8.90年代に公開された作品群が印象深い。久々の新作ではその作風がブレるのではと不安であったが、そんなことはなかった。



予告編


 原作は1998年(日本では2006年)に発行されたグラフィック・ノベル。作者の両親の"何の変哲も無い"人生を描いた異色作。

 物語は作者の前置きから始まる。彼は「両親の人生が何の変哲も無い。」のだと語りつつ、筆を走らせる。舞台はロンドンの郊外、女給仕のエセルと牛乳配達員のアーネストが出会う。本作では年齢の変化による声優変更がない。その為、エセル役とアーネスト役のジム・ブロードベントとブレンダ・ブレティンの声が周囲の人間よりも老けたように映る。しかし、ポストモダンを連想させる1930年代の若者達の声にはうってつけであった。

 なお、彼が自身の両親をモデルにした作品はこれだけではない。『風が吹くとき』や『ジェントルマン・ジム』でも同一の価値観を持つ人物が登場する。なお、ジェントルマン・ジムは風が吹くときのジムとヒルダが30代の頃の話という設定である。これら二冊を事前に読むと、彼の自伝がより重厚かつ説得力のある作品だと実感できる。

『風が吹くとき』のジム。彼は核シェルターに避難中、第二次大戦中の武勇伝を語る場面がある。そこには火事で崩壊寸前のビルから女性を救助するジムが描写されている。エセルが第二次大戦中に消防団として徴兵された経歴から、ブリッグズが父親の逞しい姿を想像していたことが伺える。

 本作での実話の真意を確認する方法は正直言って無きに等しい。しかし、余りにも赤裸々に多様性ある数々の事件を綴った『エセルとアーネスト』は紛れもなく、事実に基づく作品であろう。

 レイモンド・ブリッグズの少年時代の描写には一点奇妙な点が見られた。それは会員制の倶楽部からビリヤードキューを窃盗した罪で補導されたこと。それは不名誉な行為であり、下手すれば彼自身の汚点として吊し上げられかねない。それを導入した理由は不明で後々に引き摺ることもない。その他にも、本作には人生において重要だと認識できる要素が散りばめられるが、その話題は何事もなく過ぎていく。

 社会情勢を伺わせる数多くの台詞と国籍に関係なく訪れる人間の成長や別れは、タイミングこそ民族ごとに異なるものの、それほど大きな差がないことを教えてくれる。エセルとアーネストの馴れ初めや出産や新居を購入する場面は、文明的暮らしを謳歌する人間であれば違和感なく入り込める。また、主人公の親の世代や子供の世代の齟齬は年配者であればあるほど反応するだろう。

 庶民生活を綺羅びやかに飾らずに淡々と描いた一作。

 

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