私とカートゥーンと鈴と。: パチャママ Pachamama

パチャママ Pachamama

パチャママ Pachamama

監督 フアン・アンティン



あらすじ

  •  16世紀のペルー、アンデス山脈のどこか。10歳の少年テップルパイはシャーマン呪術師になる夢をみている。ある時、インカ帝国の君主が神聖な宝物を没収してしまう。彼は親友のナエラと動物たちを連れて取り戻すのだが、インカ帝国には思わぬ敵が待っていたのだった...

 南米アンデス地方で祀られる神様という特殊な題材ではあるものの、『キリクと魔女』のプロデューサーが担当した新作として大々的に宣伝された本作。監督は南米アルゼンチン出身のファン・アンティン氏。CMや短編等70以上のアニメーションを製作しており、彼が手掛けた『火星人メルカーノ』は高い評価を受けている。

 題名の"パチャママ"とは五穀豊穣の神として南米のアンデス地方で祀られる神様のこと。本作では、"全ての源流はパチャママに通ずる"と断言できるほど、奇妙な世界観が構築されている。プロデューサー繋がりからか、徹底した民族文化を反映させたデザインは『キリクと魔女』を彷彿とさせる。

 物語は無難だが少年少女が活躍する王道な冒険活劇。老若男女問わず気軽に楽しめるアニメーションだ。

 南米の大自然が丁寧に描かれているのは勿論のこと、物語や設定に巧妙に作用するデザインは非常に魅力的だ。東映アニメの黎明期の長編を見ているかのように親近感の湧くキャラクター。彼らはパチャママを信仰する人間、インカ帝国側の人間、そしてスペインから渡来した人間と主に三種類に区別している。それは文化や信条の違いを反映している。

 埴輪や土偶のような陶器の質感と目視できるほどはっきりとした顔の輪郭線は、"パチャママ"から誕生した分身であると直感的に理解させている。インカ帝国側の人間はまるで手足が生えたぶっきらぼうなレゴブロック。パチャママの悪印象を具現化したようなキャラクターだった。スペイン人は人間離れした身体的特徴のない一般的な西洋人として登場する。前二者が幾何学模様で神秘的、民族的な要素を抽出していたのに対して、こちらは極めて平凡と言える。悪の権威として金属製の防具で全体を覆い、血も涙も無い侵略者として描写している。

 また、パチャママから観た地球という設定で本作は展開している。天体から動植物に至るまで”パチャママ色“で調和されている。冒頭と終盤では宇宙空間とパチャママの構造をチラつかせており、常識とされる常識が悉く通用しないのだ。無機質な物体はなく土壌すら生命力に満ちている。月や太陽の笑みは『テレタビーズ』のような異様さもなく、世界観に違和感なく溶け込んでいる。

 主人公の冒険に助太刀するキャラクターもいい。序盤テップルパイから邪険にされる少女は静止画からは想像もつかないほど可愛らしい。土偶染みた表情を自由自在に変化させて、連れの山羊や飛脚を心配する場面は印象深い。彼の憧れであるシャーマン。コンドルの羽根を両腕に備えた衣装を纏う男。主人公の冒険を陰ながら支援し、彼らの成長を見守る。

 かつて、フアン・アンティン監督は『火星人メルカーノ』で資本主義に踊らされた民衆と企業を風刺した。怪物映画では典型的な火星人襲来のシナリオと混ぜ合わせた異色作であった。脚本中に”スペイン人の侵略“の要素を間接的に描いており、殺風景な背景と単純だけど強烈な暴力描写、仮想世界と現実がリンクしたシュールな世界観が特徴的だった。

 メルカーノとは表裏一体の『パチャママ』。しかし、ペルーとボリビアの文化を採用しつつ文字通り"侵略"の描写を取り入れた本作を観ると、南米世界のビフォア・アフターを鑑賞している気分になった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

人気の記事