私とカートゥーンと鈴と。: 月おとこ Der Mondmann

月おとこ Der Mondmann

月おとこ Der Mondmann
監督 ステファン・シェッシュ
脚本 ステファン・シェッシュ、ラルフ・マーティン
企画 ステファン・シェッシュ
原作 『月おとこ』 著 トミー・ウンゲラー
音楽 三宅純、ルイ・アームストロング
編集 サラ・クララ・ウェーバー
ドイツ主導 独仏愛蘭合作 95分 2012

 今年の二月に逝去した絵本作家、トミー・ウンゲラー。 日本では『すてきな三にんぐみ』の作者として有名だ。今回紹介する映画の原作は、そんな彼が1966年に発表した作品、『月おとこ』だ。

 物語は羨望の眼差しで見つめる惑星に上陸するものの、理想郷とは程遠い姿に幻滅し、偶然遭遇したイベントで欲望を満たして運良く故郷へと帰還するというもの。精霊でも神でも無邪気な少年でもない謎多き"月おとこ"。微妙に崩れかけた線と背景の空間の中で生活する彼の姿は一見不気味だ。しかし、彼の摩訶不思議な能力や主要人物の皆が救われるユーモラスな展開は好奇心を刺激させてくれる。

     宇宙飛行士の格好でどでかいお月様にきょとんと立ち竦むのでも、屈強な登山家の如く巨漢ぶりを見せつけるのでもない。主人公の月おとこは、月の表面を覆い尽くすように窮屈に寝そべる年齢不詳のおじさんなのだ。身長こそ一般的な成人男性の半分だが、月おとこは月の満ち欠けに応じて身体を徐々に変化させることができる。満月、半月、三日月、新月の形状を巧みに活用し、身を潜め、収容所から何の苦労も無しに脱出する。

    ドイツ系移民として渡米した彼の疎開感を反映させた物語ではあるが、計画性のない少し惚けたこのおじさんの活躍に特定人物に向けた堅苦しいメッセージはないのでご安心を。原作では遠く離れた異世界で悠々自適に暮らす月おとこのちょっとした冒険談だったが、映画では少々異なる。

予告編


あらすじ

  •  自分の居場所にうんざりしていた月おとこはある日、燃え盛る彗星の尻尾に捕まって地球に墜落する。彼は己の好奇心の向くまま未知の惑星で幻想世界の生物と新たな刺激に満ちた安らぎを探求し始める。その頃、月の異常に気づいた地球の大統領は密かに彼の捕獲を計画していた。そして、世界中の子供達は眠りの付添人だった月おとこの行方を心配していたのだった...

 月おとこが地球に来るまでの筋書きは原作通りだが、それ以降はほぼ別物。但し、待ち焦がれた異世界に幻滅した主人公が自身の故郷へ帰還するという大まか流れを踏襲しているので、原作の味が消えたわけではない。

 原作での非現実な存在は月おとこのみ。あくまでも摩訶不思議な生命体のいない普遍的な地球に降り立った男の話だった。しかし、本作では所々に奇妙な生物が蠢いており、全員ではないが大半の人間が友好的な程度で接しているのだ。伏線も脈絡もなくアイス売りのおじさんが1つ目のタコにアイスを手渡す場面は、絵本の筋書のみではかなり不自然であった。ただ、博士の発明品や湖畔での水泳など随所に存在する幻想的な世界観に融合していたのでさほど問題ではなかった。

 月への探検を熱望する大統領の暴走ぶりは、全体的に静寂さ極まる本作では意表を突くものだった。原作では月おとこに敵対するのは軍隊であったが、本作の場合はワガママな大統領だけだ。ある野望に取り憑かれた後先考えない彼の姿は、私利私欲の為に徐々に平常心を保てなくなったように伺える。終盤での"悪役"にはお約束の制裁も大統領の傲慢ぶりが顕著に表れている。月おとこが感受した"地球"という世界観だけで満足させていない。また、彼の存在によって、物語における善良な博士の必要性がより一層深まったのは素晴らしい改良だった。

 主要人物の配役の中でも特殊なのは、やはりナレーションの担当が原作者ご本人であることだろう。ドイツ語版限定ではあるものの、原作者自身が観客に向けて読み聞かせているのは特別だ。

 ルイ・アームストロングの"Moon Liver"に代表される月に関する名曲や、デジタル彩色ながらも色鉛筆やクレヨンの無邪気な部分を前回に押し出したデザインは心情的に訴えてくるものがあった。異世界から宇宙人と人間との友好を描いたE.Tのような壮大で波瀾万丈な冒険談ではないものの、風変わりな彼の経験談に退屈することはそうそうないだろう。

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